これまでジャーナリストとして国内外の事件現場や紛争地域を飛び回ってきた鳥越俊太郎さん(71)が、がんに直面したことで「人生の残り時間」を意識した。そんな鳥越さんの著書『鳥越俊太郎のエンディングノート 葬送曲はショパンでよろしく』(アース・スター エンターテイメント、1470円)は、自分が歩いてきた自分史を書きだし、そこから自分がどう死にたいかを書き残すことが遺された家族への最後の思いやり、として綴った1冊。本書のラストには、鳥越さんの終末に関するさまざまな希望が記してある。
「無駄な延命治療はいらない」「家族葬、密葬でよろしく。墓も戒名もいらない」「遺影はテヘラン特派員時代のカメラを提げた写真で」などなど。
実に“らしく”、潔いのだが、ひとつだけ気になったことがあった。これらはすべて、鳥越さんが先に逝くという前提で書かれたもの。夫婦ではどのように終末について話し合っているのか、奥さまの希望はないんですか?とたずねると、苦笑気味にこう返した。
「そうなんです。妻からは『私のほうが先に逝くかもしれないじゃないの』と不満そうにいわれました。だから、『お願いだからそれだけはやめてくれ。先に死んだら、20代の嫁さんをもらっちゃうぞ』って脅かしてますよ(笑い)。実際、妻の死は考えたくないものです。ただ、死は必ずやってくるものなので、夫婦で若いころからでも、話し合っておくことが必要だと思います」
長身でスーツにトレンチコートを颯爽と着こなした鳥越さんは、やっぱりダンディー。いつまでも元気で現役で、ニュースの現場に立っていたいと願う。そのために、昨年からスポーツクラブに通い始めた。さらに「学生時代、ワルツまでは習得していたので、その先のタンゴに挑戦したくて」、社交ダンスも始めたばかりだ。誰と踊りたいのか聞くと、初めて歯切れ悪く、恥ずかしそうに呟いた。
「…夢ですよ。同じくらい上手に踊れるようになったら、ですけど、一度でいいから杉本彩さんと踊ってみたいですね。彼女はタンゴの名手ですから」
“ニュースの職人”にしてタンゴの名手。充実したエンディングは、まだまだこれからだ。
※女性セブン2011年4月28日号