「駅のホームの自販機」が売り上げ2倍を実現した。「客の属性」を見ておすすめ商品を提案する「次世代自販機」。仕事でお疲れのビジネスマンに、何が売れているか。作家の山下柚実氏が報告する。
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一日中、仕事で駆け回り、くたくたになったビジネスマン。「ちょっと喉が渇いたな」と、駅のホームで自動販売機の前に立ち止まる。
さて、このビジネスマンは、何を買うと思います?
と聞かれて、ぱっと思い浮かんだのは「缶コーヒー」。特に理由はないけれど、そんなイメージだ。
「私もそう思いました。でも、現実はぜんぜん違っていたんです」とJR東日本ウォータービジネス営業本部長・笹川俊成氏は眼を丸くして言った。
ビジネスマンが夕方に好んで飲むものって……?
「実は、果汁がたっぷり入ったラ・フランスのジュースがよく売れていたのです。驚きでした」
甘さ際だつ洋梨、ラ・フランスの果汁とビジネスマン……。うーん、ミスマッチ。想像しにくい取り合わせだ。
「当初、果汁飲料は女性が好むものと考えていたのですが、実際は、購入者の半分が20代~40代の男性でした。仕事疲れの小腹を満たし、甘さで気分転換、といったところでしょうか」
この販売結果を得て、急遽、同じシリーズの新商品であるリンゴジュースの容器を、これまでのパステル調の女性向けデザインから、男性も意識した本格的な果汁飲料としてアピールするために、新鮮な果実を強調したデザインへと変更したのだという。
「果汁好きのビジネスマン」という新奇な発見。それは、ホーム上に置かれた『次世代自販機』が探り出した、まったく新しい消費者像だった。
※SAPIO2011年4月20日号