大騒動ののちに、プロ野球が開幕した。球団経営、選手の意識の裏側になにがあるのか? 作家の山藤章一郎氏が報告する。
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時代はめぐり、セ・パを取り巻く環境も、野球経営の構造もさま変わりした。日本プロ野球はどんな問題をかかえ、どこに向かうのか。
ヤクルトと西武を率い、セ・パ両リーグの監督として近年ただひとり日本一になった広岡達朗氏の意見。
「震災による開幕日の延期で、今回初めて常識が勝ちました。正力さんが思い描いた巨人はいまのようなものではなかったのです。ジェントルマンである。アメリカに追いつき追い越す。リーグ優勝ではなく、日本一のチャンピオンになる。そして迎賓館でチャンピオンフラッグを手渡す正力松太郎がニコッと微笑む。
そのときはじめて俺たちは働いたんだと実感した。
その理念が崩れてきたのが、長嶋茂雄の出現からです。ファンを魅了し続けた長嶋ですが、一度巨人の監督をクビになった。その時、ファンらは『長嶋を戻せ』でないと観に行かないぞ、ということがあった。そして長嶋が出てきた。以後、勝っても負けても客は来るようになったんです。そこへ1億円の放映権料も入る。他球団も対巨人戦のそれにあやかれる。
とはいえ球界の盟主だと。やはり負けちゃいけないと。そこで、そこまでやるかといわれるぐらいいい選手を集めようとする。すると育成にしわ寄せが来る。若い選手の出るチャンスがない。チーム、球団で選手を育てていく教育システムもない。
人間の潜在能力というのはすごい。大脳を通り越して小脳まで届かせたら、スーパー選手の仲間入りができるのです。フロント、監督、コーチは、人は教育で育つ、選手の潜在能力を引き出す方程式を辛抱強く伝える、という哲学を持たなければならない」
※週刊ポスト2011年4月29日号