おぐにあやこ氏は1966年大阪生まれ。元毎日新聞記者。夫の転勤を機に退社し、2007年夏より夫、小学生の息子と共にワシントンDC郊外に在住。著者に『ベイビーパッカーでいこう!』や週刊ポスト連載をまとめた『アメリカなう。』などがある。おぐに氏が、米国の「自粛」事情を解説する。
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実は、被災地から遠く離れたワシントンDCでも、今年の桜の季節には、日本人の間で自粛論争があった。DCは、日本から約100年前に送られた桜の木々で有名なのだけれど、毎年恒例の「さくら祭り」(ワシントンDC日米協会主催)に対し、「被災者を思えば自粛すべきだ」という声が上がったのだ。
もっとも、多数派の意見は「さくら祭りこそ、日本の被災地への寄付を集める最大のチャンス」というものだったし、個人主義の国に暮らしているからか、「嫌な人は参加しなきゃいい。そんなの個人の自由」って意見も多かった。
結局、祭りは無事行なわれ、寄付金も集まった。でも、ネット掲示板の論争が一時ヒートアップし、「祭りなんて非国民!」って意見が飛び出した時には、さすがにギョッとしたよ。
自粛がすべてダメとは思わない。「花見の気分になれない」人がいるのは当然で、それを否定しちゃいけないと思う。だって未曾有の震災だったのだ。被災地への想いの表わし方だって人の数だけあっていい。ただ、自粛は何も生まない、と思うだけ。
そういえば、多発テロ直後のアメリカにも「自粛ムード」はあったらしい。愛国的な発言以外をついつい差し控えたり、イベントが中止になったり、ラジオ局が平和を歌った曲の放送を取りやめたり……。
アメリカ人の友だちは言う。「でもね。しばらくすると、『自粛したらテロリストの思うツボ。普段通りの暮らしを取り戻そう!』って論調が力を取り戻したの。そこがアメリカ人と日本人の違いかも」って。
※週刊ポスト2011年4月29日号
(「ニッポン あ・ちゃ・ちゃ」第142回から抜粋)