震災により、日本経済は阿鼻叫喚の様相を呈した。だが、そうしたパニックの中で、巨額の儲けを手にした連中がいる。ゲームのように市場を翻弄して、日本の国富を奪っていく蛮行を、金融ジャーナリストの小泉潔氏が報告する。
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為替市場にも“仕掛け”はあった。日経平均が8227円を記録した2日後の3月17日早朝。1ドル=76円25銭を記録し、これまでの最高値が更新された。この“時間帯”にミソがあった。
外為ディーラーの経験を持つ三宅輝幸・和光大学名誉教授が言う。
「ニューヨーク、ニュージーランドのウェリントン、シドニー、東京と24時間為替市場は開いているが、ニューヨークが引ける日本時間の朝方5時頃は取引量が少なくなる。その時間帯を狙って投機筋が動いたのでしょう。
市場には急激な円高の理由として、生保や損保が災害に際して海外資産を売って円に替える『リパトリ』(本国への資金還流/repatriation)が広がったから、という観測が一時流れましたが、それすら投機筋が市場に流した間違った言説だった可能性はある」
実際、午前6時前には1ドル=79円台だった相場は、たった20分で3円以上円高に振れている。ここで狙われたのはFX(外国為替証拠金取引)に参加する多くの個人投資家だった。1995年に記録した79円75銭という最高値のラインが抵抗線となるなどの考えから、円安に戻すと見込んでドル買い・円売りポジションを持っていた個人投資家が狙い撃たれたのだ。
FXは先物と同様、レバレッジを利用して少額の資金で大きな額の取引ができる。その代わり、予測と逆に為替が振れれば損失は大きく膨らみ、強制的にロスカット(損切り)されることもある。
「ここまで円高が進んだら自動的に損失を確定する」というストップロス注文も少なくない。大幅な高値更新はないと踏んだ彼らの心理を嘲笑ったのは、やはり海外の投機筋だった可能性が高い。そうして個人投資家は否応なしに損失を確定させられる状態に追い込まれた。
旧大蔵省OBはこう語る。
「自見庄三郎金融担当相、与謝野経財相以下、緊急事態という認識が全くない。新たなルールや規制を設けることを何よりも早く考えるべきで、それをわからない大臣などいらない」
海外投機筋は、今も虎視眈々と日本のマネーや優良企業の経営権を狙っている。円高から一転、ジワジワと進む円安も不気味だ。日本が大きく傷ついた震災の中、我が国から富を奪っていく連中に、屈してはならない。
※SAPIO2011年5月4日・11日号