今年、第8回本屋大賞に輝いた東川篤哉さんの『謎解きはディナーのあとで』(小学館刊)。この作品は、財閥令嬢にして警視庁国立署捜査一課に所属する女性刑事・宝生麗子と、毒舌ながら見事な推理で事件解明への手助けをする宝生家の執事・影山のコンビが織りなすユーモアミステリー。
昨年9月に発売されて以来、魅力的なキャラクターとコミカルな掛け合い、本格的な謎解きの楽しさが話題となって、大ヒット。現在、17刷115万部のベストセラーとなっている。
東川さんは1968年、広島県尾道市生まれ。岡山大学法学部を卒業後、2002年に『密室の鍵貸します』で光文社のコンテストに入選し、作家デビュー。
「それまでガラス瓶メーカーの経理をしていたんですけど、面白くなくて辞めちゃったんです。やることがないので、家にあったワープロでミステリー小説を書いてみようかなと思ってコンテストに応募したのがそもそものきっかけ」(東川さん、以下「」内同)
とはいえ、デビューまでの道のりは厳しかった。約7年間は作品を執筆しながらも、本の仕分け作業のバイトをして生活費を捻出し、食いつないだ。東川さんが当時を振り返る。
「月収は12万円。不安はありました。芽が出なかったらどうするつもりだったんだろうって、いま考えると怖いですね(苦笑)」
本書の舞台でもある中央線沿線の六畳一間。家賃5万円のアパートで来る日も来る日も原稿を書き続ける毎日。それはデビュー後も続いた。そして2006年、女性向け文芸誌『きらら』(小学館刊)での連載の話が舞い込む。
「拝見させていただいたところ、どう見てもぼくが書いているような本格ミステリーを載せる雑誌ではなかったので当初は戸惑いを感じました。でも、逆に考えてみたらマニア向けではないというところに、新たな読者層が獲得できるかもしれないという期待が生まれたんです」
※女性セブン2011年5月5日号