すでに茨城県沖や福島県沖のコウナゴから基準値以上のセシウムが検出された。海の中は何段階もの食物連鎖が起きており、生物濃縮が起きやすい環境にある。かつて有機水銀によって引き起こされた水俣病の例もある。
しかし、水産庁による調査・研究「水産生物における放射性物質について」によれば、ヨウ素、セシウム、ストロンチウム、ウラン、プルトニウムなどの生物濃縮は「ほとんど起きない」と結論づけられている。
31種類の魚類を調べた研究では、セシウムの海水中濃度と魚体中濃度がほぼ正比例することがわかった。具体的には、1990年から1999年までに、海水中濃度はほぼ一定割合で減り続け、9年間で約33%減少した。この間、魚体中濃度も一定割合で減り、9年間で約40%減少していたのである。
これは食物連鎖による生物濃縮が起きていないことを示唆しているが、それはなぜなのか。水産庁増殖推進部研究指導課に聞いた。
「海水中の濃度より生物中の濃度のほうが高いという結果なので、一定の濃縮は起きています。しかし、食物連鎖でどんどん濃縮されていくというメカニズムは見られない。PCBやDDTなどの生物濃縮が問題になる毒物は、魚類の脂肪に入り込んで体内に留まるが、放射性物質で長く体内に留まるものはないことが調査でわかっています」
この仕組みは貝類なども同様だという。また、海草については研究が進んでいないが、今のところ一部の検査で微量のヨウ素が検出されている程度で、危険な物は見つかっていない。
別掲のデータ(※下記参照)は、毒物が海産魚の体内でどれくらい濃度が上がるかを表わす「濃縮係数」である(海水比)。セシウムの「5~100倍」は高い印象があるが、PCBの「1200~100万倍」と比べると確かに低い。ただし、前述のように濃縮されないわけではない。
●海産魚の濃縮係数
ストロンチウム 0.03~20 *1
セシウム 5~100
ヨウ素 10
ウラン 10
プルトニウム 3.5
水銀 360~600
DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)
PCB(ポリ塩化ビフェニル)
*1は『環境における放射性物質の生物濃縮について』(1973年、東京大学農学部・清水誠)より。その他は『水産生物における放射性物質について』(2011年、水産庁増殖推進部)より。
※週刊ポスト2011年4月29日号