オバマ政権が発足した2009年当初、アメリカは親中政策を推し進めたが、1年後の2010年には対中政策を根本から変えた。中国が力をつけ、アメリカと肩を並べ、さらには凌駕していこうとしている時代に、何があったのか。ジャーナリストの櫻井よしこ氏が解説する。
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オバマ大統領は09年9月23日の国連総会で中国との「相互の利益と尊敬に基づいたエンゲージメント(関与)の時代」を強調し、「米中新時代」の到来を誇示しました。
しかし、その後オバマ政権の対中観は180度転換しました。最初の訪中から約1年後、オバマ大統領はインド、インドネシア、韓国、日本を歴訪しました。米国はインドの国連安全保障理事会の常任理事国入りを支援すると明言しました。日本にはすでに同じ意思表示をしていますので、アメリカはインドを同盟国並みに扱う構えを見せたわけです。インドネシアは世界最大のイスラム教人口を擁する国で、その大半は穏健なイスラム教徒です。中東でのテロリスト、イスラム原理主義勢力との戦いを考えれば、インドネシアとよい関係を保つことは非常に重要です。
加えて韓国、日本を回って、中国には立ち寄らなかったのが、オバマ大統領の歴訪でした。国家基本問題研究所副理事長の田久保忠衛氏は、この4か国訪問はいわば「反中戦略拠点」を築く大戦略によるものと指摘しています。わずか1年で、アメリカは中国とは価値観が異なること、中国は容易には信頼できない相手であることを知ったのです。
09~10年の1年間に何があったのでしょうか。09年3月には米海軍の非武装海洋調査船「インペッカブル」が海南島沖の公海上で5隻の中国艦船に取り囲まれ、妨害されました。10年3月には韓国の哨戒艦「天安」を撃沈した北朝鮮を中国が徹底的に擁護しました。
ASEAN地域フォーラムが開かれた7月には、中国は東南アジア諸国に、南シナ海問題で米国などの介入を招くことについて強く警告しました。そして10年9月には、尖閣諸島周辺の日本領海を中国漁船が侵犯したことについて、中国政府は居丈高に日本の謝罪と賠償を求めました。こうした一連の事柄によって、中国共産党政権の本質が明らかになり、米国はそのことを明確に認識したと思います。
そのアメリカに対し、中国はライバル心を隠すことなく、堂々と対抗し世界の覇権を狙っています。
※SAPIO2011年5月4・11日号