広瀬和生氏は1960年生まれ、東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。30年来の落語ファンで、年間350回以上の落語会、1500席以上の高座に接する。その広瀬氏が「最近急に面白くなった」と勧めるのが、三遊亭兼好である。
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落語会にたくさん通い続けていると「この噺家、最近急に面白くなったな」と驚かされることがある。リアルタイムで現在進行形の落語を追いかける醍醐味の一つだ。最近それを感じたのは三遊亭兼好。「圓楽党の希望の星」である。
1998年に三遊亭好楽に入門し、2008年真打昇進。入門は28歳と遅く、すでに41歳の兼好だが、落語界でこのキャリアはまだまだ若手である。
兼好の持ち味は、明るく楽しく元気いっぱいに客をもてなす、その「サービス精神」にある。
彼は、入門する直前まで落語をよく知らなかったという。つまり「落語年齢」が若く、マニア特有の屈折が無い。誰でも気軽に楽しめる「現代の笑い」としての古典落語を生き生きと提供する兼好には、一切の迷いが無いように見える。その衒いの無さが、実に清々しい。
落語に対する新鮮さを常に保ち、「面白いでしょ!?」と嬉しそうに観客に訴えかける兼好の落語は、メリハリの効いたわかりやすさが特徴。人物のキャラを明確に演じ分けるパワフルな演技は、クサさを感じさせかねないほどインパクトが強い。
だが、仕草や目線などの基本をおろそかにしない「圓生一門らしい技術」を持つ兼好は、いくら大げさに演じても、決して下品にならない。
※週刊ポスト2011年4月29日号