元キャンディーズのメンバーで、女優と活躍した田中好子さん(本名・小達好子)が21日夜、乳がんのため東京都内の病院で亡くなった。55歳だった。キャンディーズを引退後、1980年に女優として芸能活動を再開。1989年に主演した映画『黒い雨』でブルーリボン賞を初め主演女優賞を獲得して、本格派スターの仲間入りを果たしている。そのときの秘話を紹介する。(週刊ポスト1991年6月9日号・14日号より)
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今村昌平監督作品『黒い雨』は、89年のカンヌ映画祭で高等技術委員会が選ぶ最優秀作品賞を受賞した。
『黒い雨』は広島の原爆投下直後、“放射能の雨”を浴びた女性の人生を中心に描いた作品だ。原作は井伏鱒二の同名小説。田中好子は被爆者ゆえ「ピカを浴びた娘」と呼ばれ、結婚もかなわず、白血病で倒れる矢須子役を演じている。
当時彼女の主演女優賞受賞を予言していた映画評論家の品田雄吉氏は、こう語っていた。
「今村監督は彼女について、“ひ弱な子と思っていたが、やらせてみてよかった。筋がいい”と、話していました。実際、素晴らしい演技をしています。(中略)彼女のように、歌手出身の人はコンパクトで鋭い表現力を持っていますね」
また、とある映画記者はこんな秘話を教えてくれた。「当の今村監督は、田中好子が元“キャンディーズ”の一員だったと知らずに起用したのだそうです。巨匠、今村監督は“プロの女優”と認めています」
とはいえ、撮影は元アイドルにとっては厳しいものだったようだ。「ロケは岡山県の山村で行なわれたのですが、今村監督の“東京に戻ると、顔も都会風になる”という考えから、山村にカン詰め状態。それでも辛い顔も見せず、共演の市原悦子さんから縫い物を教わったりして待ち時間を過ごしていましたね」(映画関係者)
1991年に入って日本テレビの二時間ドラマ『優しい報復』で田中好子を主役に起用した田中知己監督も、「演技は素晴らしいものを持ってますし、キチンと“予習”もしてくる。気取らず、明るい人柄で、現場の人気もある。一度使えばまた使いたくなる女優ですね」と語っていた。