福島第一原発から約22km。ゴーストタウンと化した街並みの続く福島県双葉郡にあって、原発作業員の“心の拠り所”となっているのが「民宿ひろの」である。
駐車場には10数台の車が集まっていた。青森、広島など日本各地のナンバーが記され、作業着の男たちが降りては宿に消えていく。
ここを経営するのは60代のオーナー夫妻のほか、家族と数人の従業員である。自主避難地域にもかかわらず、3月末から原発作業員の宿泊施設として宿を開いている。
オーナーの女将はいう。
「そりゃ私も最初は避難しましたよ。でも地元の方に『復旧作業に当たる作業員が、段ボールの上に寝ている状態だ』と聞かされてね。今、頑張っている人を応援しないといけない、と決心しました。それに、うちはもともと東電のおかげで賑わってきましたから」
再開するとはいえ従業員も足りず、食料の調達にも限りがある。十分なサービスが提供できない。水道も止まっていた。救いは先代が掘った井戸があるので、風呂を沸かせることだった。
宿に泊まる作業員たちは、「おおッ、ここは水が出る。お風呂は天国だなァ」と口々に喜んだ。その顔を見て女将は戻ってきてよかったと思ったという。
※週刊ポスト2011年5月6日・13日号