ライフ

「直ちに…」「ずっと食べ続けなければ…」に専門家疑問

「直ちに人体に影響を及ぼす数値ではない」
「ずっと食べ続けなければ大丈夫」

 福島第一原発事故による汚染が深刻化する中、「学者」や「専門家」がテレビに登場し、こう繰り返している。ウラン濃縮の専門家で環境問題にも詳しい武田邦彦・中部大学教授は「これまで被曝限度とされてきた国際基準がなし崩しにされている」と、その言説を批判する。

 * * *
 一般人に対する法律上の放射線の年間被曝限度は1ミリシーベルト(1000マイクロシーベルト)であり、この数値が国際基準になっている。

 ところが今回の事故で放射性物質が広範囲に飛散し、年間に換算して1ミリシーベルトを超える地点が出てくると、学者や専門家はメディアを通じて一斉にこう言い出した。

「飛行機で東京とニューヨーク間を往復すれば200マイクロシーベルト被曝する」
「自然界からは規制値を上回る1.4ミリシーベルトの放射線を浴びている」

 規制値である1ミリシーベルトは、そうした自然界や医療などでの被曝を考慮に入れた上で決められたものなのに、「自然界や医療被曝でも放射線を浴びているのだから、原発からの被曝量が1ミリシーベルトを超えても大した問題ではない」かのような論理にすり替えられてしまったのだ。

 1ミリシーベルトの規制値が雲散霧消してしまったかのように、「100ミリシーベルトまで安全」と言い切る専門家も現われている。3月18日、茨城県は福島県境に近い高萩市で採れたホウレンソウから、国が示した規制値(1㎏当たり2000ベクレル)の約7.5倍に当たる1万5020ベクレルの放射性ヨウ素131を検出したと発表した。

テレビに出た専門家は、

「このホウレンソウ(1㎏)の数値を人体への影響を示す単位であるシーベルトに換算した場合、0.24ミリシーベルトになる」と前置きして説明した。

「小鉢1人前のホウレンソウを100gと仮定すると、4200人分を口にしないと人体に影響を及ぼさない。妊婦や子供など、放射性物質の影響が大きいとされる人たちについても、摂取しても問題のないレベルだ」

 この専門家は「100ミリシーベルトまで安全」という前提で話しており、1ミリシーベルトで計算すると、このホウレンソウは1年に42回しか食べられない野菜になる。

 そもそも100ミリシーベルトは慢性的な疾患やがんが相当増えるとされる数値で、がんの発生率は100人に0.5人とも言われている。

「100ミリシーベルト安全説」を主張する専門家は、

「日本人の100人におよそ50人はがんにかかる。放射線の被曝で100人に0.5人がんになる人が増えたからといって、それほど大きな問題ではない」

 という趣旨のことを話していた。リスクをどのように考えるかという問題だといってしまえばそれまでだが、彼の論理だと「交通事故による死者数は10万人に約5人だから、交通事故対策はしなくてもよい」ということになってもおかしくない。

 風評被害や過剰反応を抑えたいという意図かもしれない。だが、これは純粋に科学的な検証の問題であり、両者を混同して議論するのはおかしい。

 枝野長官は4月11日、原発から30㎞以上離れた地域にも、避難指示を拡大する方針を明らかにした。その理由は「累積放射線量が20ミリシーベルトを超えそうだから」だったが、日本人の放射線への耐性がいきなり20倍になったわけではない。やはり1ミリシーベルトという国際基準は簡単に捨ててはならないと考える。

 国は茨城県産の魚から高濃度の放射性ヨウ素が検出されると、あわてて規制値を決めたが、こうした場当たり的な対応が国民の不信感を招いている。

 1986年のチェルノブイリ原発事故の約2年後、IAEA(国際原子力機関)が報告書を出している。そこには「被曝は小規模なので、子供の甲状腺がんは出ないだろう。遅発性(10年ぐらい経った後の)がんは自然発生するがんとの区別ができないほどしか出ないだろう」と書かれていた。

 確かに直ちに被害は出なかったが、4年後に約5000人の子供が甲状腺がんを発症した。また10歳ぐらいで被曝した女の子が15年後に結婚して生んだ子供は発育不良の障害児だった。

 余計な危機を煽るつもりはない。しかし、「非常時」だからといって今まで基準となっていた1ミリシーベルトをないがしろにしていいわけがない。将来、被曝した人(特に子供)に障害が数多く出たら取り返しがつかないのである。

※SAPIO2011年5月4日・11日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

昨年7月に遺体で発見された女優・遠野なぎこ(右・ブログより)
遠野なぎこさん(享年45)が孤独死した自宅マンションの一室に作業服の「特殊清掃」が…内装一新で「新たな入居者の募集へ」
NEWSポストセブン
11の宗教団体に緊急アンケートを実施(創価学会/時事通信フォト)
《11大宗教団体緊急アンケート》高市政権と「中道」の評価は? 長年のライバル関係ながら新党を支援する側に立つ創価学会と立正佼成会はどうするのか
週刊ポスト
書類送検されたことが報じられら米倉涼子
米倉涼子、近く表舞台に復帰へ…麻薬取締法違反の容疑で書類送検も「一区切りついたと認識」で進む映画の完成披露試写会の最終調整 メディアの質問はNGに
NEWSポストセブン
茨城県水戸市のアパートでネイリストの小松本遥さん(31)が殺害された事件で1月21日、元交際相手の大内拓実容疑者(28)が逮捕された
“ストーカー魔”大内拓実容疑者の事件当日の足どりを取材 ツーリング仲間の母親は「悪い子じゃない」「友達だったことは間違いないですが…」 《水戸市・ネイリスト女性刺殺》
NEWSポストセブン
年頭視閲式に出席された皇后雅子さま(2026年1月23日、撮影/JMPA)
《品位と品格を感じる》雅子さま、10年前にもお召しになったロングコートでご出席 皇宮警察へのお気持ちが感じられる天皇ご一家の青系リンクコーデ
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんの「自宅で運動する」オフシーズンとは
《真美子さんのヘルシーな筋肉美》大谷翔平夫妻がリフレッシュする「自宅で運動する」オフシーズン…27万円の“肩出しドレス”を晩餐会に選んだ「別人級の変貌」
NEWSポストセブン
「憲法改正」議論も今後進むか(高市早苗・首相/時事通信フォト)
《改憲勢力で3分の2超の予測も》総選挙後・政界大再編のカギとなる「憲法改正」 “安倍政権でさえ改憲原案提出なし”というハードルの高さ 高市首相に問われる決意と覚悟
週刊ポスト
イギリス出身のお騒がせインフルエンサー、ボニー・ブルー(TikTokより)
《歩いて帰れるかどうか不安》金髪美女インフルエンサー(26)が“12時間で1057人と関係を持つ”自己ベスト更新企画を延期した背景
NEWSポストセブン
中道から秋波を送られている石破茂・前首相(時事通信フォト)
《本人は否定しても、高まる期待》石破茂・前首相に中道との合流を後押しする人たちの声「これまでの野党にない必死さがある」「高市政権の暴走を止める決断を」
週刊ポスト
年越しはイスタンブールで過ごした渚さん(Instagramより)
「生きてみるのも悪くない、とほんの少し思えた」 渡邊渚さんが綴る「年越しを過ごしたイスタンブールの旅」
NEWSポストセブン
Netflixドラマ『地獄に堕ちるわよ』にて細木数子さん役を演じる戸田恵梨香(時事通信フォト)
《出産から約3年》女優・戸田恵梨香の本格復帰が夫婦にとって“絶妙なタイミング”だった理由…夫・松坂桃李は「大河クランクイン」を控えて
NEWSポストセブン
宮崎あおいと岡田准一の円満な夫婦仲(時事通信)
《女優・宮崎あおいと4児の子育て》岡田准一「週6ジム通い」の柔術ライフを可能にする“夫婦円満”の秘訣
NEWSポストセブン