原発事故が長引く中で、政府は、「被曝限度量を引き上げる」と言い出した。
1つは原発作業員で、すでに100ミリシーベルトを超えた者が30名近くいるのに、さらに限度引き上げを検討しているのだ。
100ミリでも、がん死亡率が0.5%上がるというのが医学の定説であり、「東電と関連会社の職員はがんになってもいい」といわんばかりの対応は、国民切り捨て政治だ。
本人たちは責任感から困難な作業をしているが、その犠牲に国民が“タダ乗り”するだけでいいのか。作業員たちの親や妻子が、どんな思いで日々の報道を見ているか、政治家も国民も想像すべきだ。
もう1つは一般市民の限度量で、政府は年間20ミリシーベルト以下は居住できることにしようという。
確かにこれは国際放射線防護委員会の提言に基づいた案だが、日本人が環境から受ける被曝量が年平均1.5ミリシーベルトであるのに、その10倍以上の量を「安全だから住め」というのは、これも国民切り捨てだ。
子供や妊婦が本当に安心して暮らせるかは、科学だけでなく心の安寧の問題として、まさに政治決断が必要ではないのか。特に子供たちに対しては、現在の科学的常識より幅をもった安全思想があってよい。
※週刊ポスト2011年5月6日・13日号