福島第一原子力発電所の事故対応では、東京電力の危機管理能力のなさが露呈した。なぜこうした事態に至ったのか? 大震災直後から説得力のある鋭い分析が注目され、講演を収録した映像がYouTubeに流れるや累計190万アクセスという大反響を呼んでいる大前研一氏が、詳細に検証する。
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東電の危機管理能力がここまで低下した1つの原因は、旧自民党政権との「癒着構造」である。
旧自民党政権は、東電をはじめとする電力会社を景気対策の道具に使ってきた。たとえば、景気対策であと2000億円必要だとなると、予算を組まずに東電や関電などを呼びつけ、2000億円分の設備投資を要求する。電力会社はそれに従い、不要不急のハコものを造る。そういうことを繰り返してきたのである。
そして景気対策に協力する見返りとして、電力会社に対する政府の監督の目は甘くなった。世界標準の2倍くらいの電気料金を認め、原発の安全審査を厳しくする代わりに、住民対策ができていれば認可しよう、という倒錯した発想が咎められることもなかった。
だが、1979年にアメリカでスリーマイル島原発事故が起きたことで、その癒着構造に綻びが生じてきた。同事故以降、アメリカでは新たな原発を造ることができなくなった。このため、さしものGEもだんだん原子炉エンジニアがいなくなってイノベーションがなくなり、既存炉の運用とメンテナンスが中心となり、次第に技術力が低下した。
一方、日本では地元住民の原発反対運動が強まる中で、政府は国策として原子力産業を推進していながら、原発が立地する地元の説得は電力会社に押し付けてきた。そこで電力会社はどうしたか? ひたすらカネをバラ撒き、地元を懐柔した。その結果、ひとたび原発を受け入れた自治体には、福島第一原発や新潟県の柏崎刈羽原発のように、原子炉が1か所に6基も7基も集中するという歪んだ構造になった。それが今回の4基同時に損傷する大惨事につながったのである。
しかも、東電の場合はGEとの蜜月関係が崩れた影響で2002年、圧力容器にヒビ割れがあることを隠しているというGEの下請けのエンジニアによる内部告発を受けた。この「原発トラブル隠し」が大問題となって当時の会長と社長が辞任に追い込まれ、福島第一原発所長を20年経験した常務をはじめとする原子力畑の人間はことごとく粛清された。
その後の東電は、供給力の35%を原子力に依存していながら原子力エンジニアを忌み嫌う会社になり、経営陣の大半を人事や総務、経理など事務系の人間が占めるようになった。その典型が、体調を崩して入院した調達部門出身の清水正孝社長である。今回、東電の危機管理能力が低くて対応が鈍いのは、複雑きわまりない原発の内部構造を熟知している人間が上層部にいないからでもある。
※SAPIO2011年5月4・11日号