ソフトバンク社長・孫正義氏の「志」に迫った本誌連載『あんぽん孫正義伝』。連載終了と同時に日本を国難が襲った。孫氏は次々と被災者支援を打ち出す。以下は、『あんぽん』筆者の佐野眞一氏(ノンフィクション作家)と孫氏による解説と一問一答である。
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孫は震災翌日の3月12日には、国内向けSMSを無料化、iPhone用「災害伝言板アプリ」を提供している。その翌日には、大量の充電器を現地に送る手配をし、被災地のユーザーの支払い延長、破損・紛失対策、携帯貸出などの対策を矢継ぎ早に打ち出した。
また3月20日には「偽善者!」というツイートに「私は偽善者と批難されても構わない」と答え、「ドコモなどを使う震災孤児ユーザーにも携帯無償化したら見直す」というツイートに「やりましょう。他社ユーザー震災孤児でも」と答えている。
――私が感心したのは震災後の孫さんの迅速な行動です。ツイッターを見ても、翌日からリアクションを起こしています。その衝動の理由は何だったのですか。
「津波から逃げたときにお母さんとはぐれてしまった小学5、6年生くらいの女の子が、翌日、海に向かって『お母さん、お母さん』と叫んでいるシーンをテレビで見て、涙が止まらなかった。でも僕らには、ほんとに小さなことしかできない。自分の非力さに腹が立って、悔しくて仕方がなかった。それこそ、人生観が変わるぐらいのショックでした」
――1995年の阪神淡路大震災の時と比べてどうですか。
「当時はまだ携帯電話の会社をやっていませんでした。インターネットをはじめてすぐでしたが、阪神の時はインターネットはつながってたんですよ。関東にいて、距離が少し離れているという感じもあったし。遠い場所の出来事という印象でした。むしろ、ヤフーを抱える我々としてはインターネットでも強いでしょうみたいな。
でも、今回は、我々は責任ある立場でインフラを提供しているわけです。電話がつながっていれば、何人かまだ救われた方がいるんじゃないか、自分の力のなさのせいで何人か犠牲者が増えてしまったんじゃないかという自責の念ですね。それこそ腹をかっさばきたいくらいの責任感、自己嫌悪がある」
※週刊ポスト2011年5月6日・13日号