〈さまざまの 事おもひだす 桜かな〉
おくのほそ道紀行で、東北地方との縁も深い松尾芭蕉が桜を詠んだ句である。
3月11日に起こった自然の手による忌まわしい大惨劇が、みちのくからすべての色を奪い去り、人々を悲しみの底に突き落とした。あれから1か月半。
岩手県陸前高田市の金剛寺では、50本のソメイヨシノの下で、地酒『酔仙』を酌み交わしながら、住民たちが復興を誓いあった。宮城県名取市閖上地区では、津波に倒された桜の枝から数輪の花が開き復興の象徴になっている。
また「滝の桜に手は届けども、殿の桜で折られない」と盆歌に歌われ、江戸時代から庶民に親しまれてきた福島県三春町の滝桜など、被災地の桜はやさしく力強く花を咲かせた。
桜の開花は山の神の里への降臨の告知であり、神を祀り、酒食をともに、五穀豊穣を願う。桜樹信仰ともいうべき古代から続く祈りは今後も被災地の春に生き続けていく。
被災地に咲いた望郷の桜を、写真とともにいくつか紹介しよう。
【金剛寺】(岩手県陸前高田市)
境内に咲く約50本の桜の木の下でちりぢりに避難した集落の人々が集まり「花見」をした。古くから地元に伝わる太鼓の音色に合わせて手拍子と笑顔が久々にあふれた。