東日本大震災以後、テレビCMはACのCMだらけになった。当然CM総合研究所が4月4日に実施した「CM好感度調査」(印象に残ったCM)のトップ10のうち、7件がAC関連のものとなった。そんな中、トップ10にAC以外で入ったのがニチレイ・アセロラドリンク(サントリー・5位)、香取慎吾と五月みどり・舟木一夫が登場するロト6(8位)、ムシューダ(エステー・9位)。
9位の「ムシューダ」は震災対応というわけではなく、過去のCMを流したもの。防虫剤の「ムシューダ」のキャラ「熊雄」が動物園でイケメンの兄に会うというものだが、生活雑貨メーカー・エステーの「特命宣伝部長」である高田鳥場(たかだのとりば)氏は「“お見舞い”よりも“日常に戻ろう”」を意図したと語る。つまり、震災があろうがなかろうが、衣服等に虫がつくことがあるわけで、「ムシューダ」は防虫に役立つわけだ。
ただし、当時は「自粛ムード」が広告業界には漂っており、なかなか「日常」CMを流すのは難しかった。震災時に企業が果たすべき役割について同氏に聞いた。
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――震災後の企業CMはとかく「日本を応援する」「前向いて歩こう」「一人じゃない」と呼び掛けるものでしたが、なぜ、「熊雄」の昔からあるバージョンを流したのですか?
高田鳥場:復興のためには、そろそろ「日常」に戻る必要もあると考えました。そこで新しいCMを流すのは「日常」ではありません。ACの新しいCMが大量に流れていた時は必然的に「震災後」を意識させられます。そこに私たちが新しいものを出しても「震災後」を連想させてしまい、それはまだ「有事」の内容として位置付けられてしまいます。
今回の震災では、普段通りの生活がいかに尊かったかを皆さんが実感したことでしょう。だからこそ「日常」に戻ろうと私たちも言いたかったのですが、震災から日が浅いときに、新しいものを楽しそうに作ったら作ったで、それは被災者のかたがたへ配慮が足りないような気がする。だからこそ、震災前に見ていた「ムシューダ」の「熊雄がイケメンの兄に出会う」を流したのですね。そうすれば、視聴者は「あっ、これはアノ平和だった時に観ていたCMだ!」と心が「日常」に戻るお手伝いができるかもしれないと私は考えました。
その後、エステーは当初の企画を変更し、「消臭力」のCMでポルトガルの人々が歌うCMを作り、流しました。これはたまたまだったのですが、1755年に津波で大打撃を受けたポルトガルの首都・リスボンで撮影し、ポルトガルの子供たちに「消臭力」の歌を歌ってもらった内容です。
――ツイッターなどで「感動的!」とか話題になりつつも「何だよ、消臭力のCMかよw」と笑われたCMですね。そもそも企業ってどうやってCMで震災に貢献すればいいのでしょうか?
高田鳥場:私は「プロの仕事をしろ」ってことだと思うのですよ。たとえば、東京ディズニーリゾートが震災後に流したCM。彼らは浦安という液状化の被害に遭った場所に位置しています。被災者であり、さらに「電気を食う!」ってことで批判にも晒されましたが、4月15日に節電をしながら復活しました。
そんな彼らが流したCMは「あなたの笑顔にお会いするために、東京ディズニーリゾートはただいまお休みをいただき、皆様をお迎えする準備を進めています」というもの。あくまでも「エンタテインメントを提供するディズニー」なのですね。彼らはブランドイメージについては徹底している企業ですが、今回のCMはその徹底さが出ていましたし、「エンタテインメント」という彼らが最も得意なプロの部分を明確にCMという形で見せた。
あとは例えばIBMですね。クラウドサービスを被災地には無償で提供するとCMで告知しました。
ディズニーもIBMも「プロ」として企業が貢献できることを明確にCMで示したのです。自分のドメインで勝負しているCMは受け入れられると思うんですね。本来、お客様に喜んでもらってはじめて企業は存在するわけで、そのプロの領域を行うことこそ、当たり前ですが「お客様」に喜んでもらえると思いました。エステーにしても、「防虫剤」「消臭剤」というプロの仕事を見せるCMを作ったと思います。