ソフトバンク社長・孫正義氏の「志」に迫った本誌連載『あんぽん孫正義伝』。連載終了と同時に日本を国難が襲った。孫氏は次々と被災者支援を打ち出す。以下は、『あんぽん』筆者の佐野眞一氏(ノンフィクション作家)と孫氏の一問一答である。
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――孫さんはいまの政府や東電を見て、どう思っていますか。
「まず東電経営陣の皆さんが初動をテキパキとしていれば被害はもっと少なくてすんだんじゃないかと。それが腹立たしい。死に物狂いでやっている現場の方には敬意を表しますが経営陣の必死さは伝わってこない」
――確かに東電経営陣の釈明会見はまるで他人事でした。あれを見ていた人は全員怒りを覚えたと思います。
「政府に対しては、例えば避難民のメリハリをもっと明確につけるべきだと思うんです。『自主避難』というのは、判断を放棄してしまっている。最初の初動が『大丈夫です、安心してください』と、危険じゃないことを強調し過ぎた。でも、この非常事態には、もっと危機意識を強く、ややオーバーすぎるくらいの臨戦態勢をとるべきだったんです。
僕は今回でいえば、2つの究極の正義の議論があったと思うんですよ。風評被害と人命被害。要するに大事だ、大事だと騒ぐと風評被害がより広まる。でも、騒がないと物理的な避難をするのが遅れる。これはサンデル教授じゃないけど、難しい選択なわけです。でも、今回でいえば僕は徹底的に放射能問題を調べて公表するべきだったと思う」
――政府の対応が悪いばかりに、日本のイメージが完全に地に墜ちた。
「完全に政府のミスといえるのは、例えば、原子力安全・保安院が発表した安全基準が、IAEA(国際原子力機関)とはまったく違う、日本独自のモノサシだったことです。それを自分たちのほうが正しいかのように報告した。IAEAの基準は土地の表層部分で、1平方メートルあたりの放射性物質を計測する。ところが保安院はわざわざ地面を5センチ掘り、採取した土壌1キログラムあたりの放射線量を測る。放射性物質は表面に付着するんだから、掘って測れば、10分の1くらいになってしまうじゃないですか。ある種の虚偽、粉飾です」
――いわば粉飾放射能か。
「世界のモノサシで数値を適宜開示していかなければ、日本政府の発表する数値には信頼がおけないと、世界中の政府やメディアが思ってしまう。それはあらゆる輸出にダメージを与える」
――観光客も全然来ない。
「つまり、これは信用不安ですよ。ただちに健康被害はないとか、『レベル3』だ『レベル5』だとかいっていた。あげく、今になって『レベル7』だという。これは政府のミスジャッジであり、政府が人命被害だけでなく、風評被害を拡大させたことになる」
※週刊ポスト2011年5月6日・13日号