「損害補償額は数十兆円」「国有化は必至」「上場廃止で株券は紙くずになる」――。日本有数の安定企業とされてきた東京電力が、原発事故をきっかけに、市場で信頼を失いかけている。東電は潰れるのか。株主と市場は「東電ショック」に苦しむのか。
東京電力の株主は約61万人で99%は個人投資家が占める。高齢者が手堅い資産運用のために保有しているケースが多いのが特徴だ。
その東電の株価は、原発事故前の約2000円から約500円に暴落。それだけでも株主のショックはいかばかりかと思われるが、今後の廃炉作業や巨額の補償金支払いで債務超過に陥り、上場廃止となって株券が紙くずになりかねないとの懸念が広がっている。
東電は総資産約14兆円、資産から負債を引いた差額である純資産は約3兆円の超優良企業だった。
果たして本当に債務超過に陥っているのか。
2010年12月末時点のバランスシート(連結貸借対照表)によると、固定資産総額は約12兆4000億円と、固定資産が総資産の約9割を占める。
原発も巨大資産かと思うと意外にもそうではない。実は、福島第一原発の帳簿価額は、東電広報部によると1930億円(炉ごとの価額は非公開。2009年3月末時点)しかない。
福島第一の全6基が使用不能になり、土地(700億円程度)も価値を失うとしても、東電の財務の規模からすれば大きな損失とはならない。
水力、火力、原子力を合わせても発電所の設備資産が総資産に占める割合は18%程度。原子力の設備に限れば約8500億円だ。固定資産の中で大きいのは、電線や配電所などの「送電・変電・配電」設備で、合計約5兆円を占めている。
実は、原発設備よりも高額な固定資産が核燃料で、約9300億円と計上されている。
そのうち福島第一原発(全6基)にある燃料棒の合計帳簿価額は519億円。本数は2808本なので、1本当たり約1850万円。炉心溶融が起きたと見られる福島第一原発1~3号機の炉内には、燃料棒が1496本残っていたが、これが再使用不能になるとすると、280億円程度の損失と試算できる。
※週刊ポスト2011年5月6日・13日号