オバマ政権が発足した2009年当初、「G2」という言葉は盛んに使われた。これは、米中の2大超大国が中心となって世界を動かす体制の意だが、米国は2010年に対中政策を根本から変え、G2政策を口にする人々はほぼいなくなった。ところが、当の中国が力をつけ、アメリカと肩を並べ、さらには凌駕していこうとしている。だが、このまま中国がすんなり大国になれるとは限らない。ジャーナリストの櫻井よしこ氏が指摘する。
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中国が抱えている最も深刻な危機は、他でもない、自国の中にあります。アフリカ・中東諸国の革命に端を発した、民主化への動きが、元々存在していた中国国内の民主化要求運動を活性化させるのではないかと、中国共産党指導部は極度に恐れています。
中国共産党政権が民主化を恐れている証拠のひとつが、民兵、公安警察、武装警察の年間予算が、なんと、中国の軍事予算よりも多いという事実です。2011年度の軍事費が約7兆5000億円であるのに対し、実に7兆8000億円に上ります。
それでも国民の不満を抑制することはできません。これまで中国国内で発生する暴動は年間10万件と言われていました。しかし、現在では年間20万~30万件もの暴動が起きていると言われます。ざっと見て毎日600件から1000件近い暴動が発生している計算で、それを中国共産党は暴力で抑え続けているわけです。
しかし、人間は生活がある程度豊かになると、必ず自由を求める存在です。そして自由への渇望を止めることは誰にもできません。
中国は経済を発展させ、民衆を豊かにさせることでその不満を抑えようとしていますが、現状では貧富の差は恐ろしいほどに開きつつあります。富士通総研の柯隆主席研究員の報告によれば、中国では上位0.4%の富裕層が国民所得の70%を占めているのです。13億人の0.4%はわずか520万人です。民主党などは日本の現状を格差社会だと批判しますが、日本は人口の上位1%が国民所得の10%を占めています。
中国こそ、格差社会の典型です。そのような歪んだ国情の中で、人々の自由で公正な社会、政治的権利の平等や司法の公正さなどを求める声が弱まることはあり得ません。中国で民主化運動が大きなうねりとなれば、共産党が主導する経済成長戦略や軍拡の動きもストップすることが考えられます。
※SAPIO2011年5月4・11日号