東京・港区で法律事務所を経営しているH氏(45才)は、“離婚に強い”と評判の弁護士だ。しかし、そのH氏の有能な頭脳を混乱させる問題が、もちあがっている。(女性セブン1988年5月12・19日号より)
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「こんな相談、初めてだよ」と日夜、H氏を苦しめているのは、近所の大学病院の小児科の女医・Tさん(40才)だ。
Tさんは、『赤ちゃんはトップレディがお好き』という映画の主人公、ダイアン・キートンによく似た美人。やや神経質そうなしぐさもそっくりだ。そのせいかどうか、Tさんは38才になって結婚した。それだけ男性を見る目をこやした、ともいえるのだが、“勉学”ひとすじで青春を送ったせいなのだろうか。その男性観は、かなりゆがんでいた。
「まあ、これをごらんになれば、どうして私が離婚したいのか、おわかりいただけると思います」――自信たっぷりにTさんは、H氏に2冊のノートを手渡した。
こういう場合は、家計簿とか、お金の覚え書きのたぐいが多い。H氏も、そのたぐいかと思い、おもむろにノートを開いてみた。
「これがなんというのか、つまり夫婦のセックス日記なんですよ」
もう、うんざりというようにH氏は語る。つまり、こういうことなのだ。Tさんは“医学的な見地”から、セックスは重要な夫婦のコミュニケーションだという。ここまではH氏も同感だ。
しかし、日記の内容は、Tさんの自作自演のポルノ小説まがい。「夫は私の腰をもちあげもしないで、やみくもにペニスをつき立てた。ヴァギナは全くうるおいなし」「きょうでちょうど20日。20日間も夫は私の体にふれていない。ホルモンのバランスをくずしそうで恐ろしい」
それからTさんは、アメリカのセックスレポートである『ハイト・レポート』をしめした。そして、いかに性的に夫が正常でないか、切々と訴えるのだ。
「週に1回が私たちの年代ではノーマルなんです。月に1度がやっとなんて、おかしいわ」
さらにTさんは、カレンダーを持ち出してきて、日記どおりに○や△をつけていく。△は不満足に終わった日だという。これだけで、慰謝料を最低200万円ブン取り、離婚したい、とTさんは本気なのだ。とても無理な話で断りたいH氏だが、親しい医師の紹介できたTさんだから、無下に断れない。