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落合信彦氏 リビアで傭兵同士の戦争が起きる可能性を指摘

 膠着状態が続くリビア情勢は、日本の原発問題と並んで世界の注目を集め続けている。リビア関連報道の中で、日本の国内ニュースではまずお目にかかれない単語がある。

 それは、「傭兵」である。いまやリビアでは傭兵同士の戦闘がおきる可能性もあると落合信彦氏は指摘する。

 * * *
 ベトナム戦争で戦地から帰還したアメリカの軍人たちは、反戦機運の盛り上がりもあり、ろくな職にもありつけなかった。そこでカネのために傭兵になるという選択肢を選んだ軍人もいた。このベトナム戦争からの流れが、現在のアメリカに数多くある民間軍事会社の存在につながっていると言えるだろう。

 イラクやアフガンでは、多くの民間軍事会社が“仕事”を得ている。現地の要人警護や刑務所のセキュリティ保持など、その業務は多岐にわたる。アメリカという国家には、軍産複合体という怪物が巣喰っている。そして「産」が「軍」を侵食する流れは、年を追うごとに強まっていると言えよう。

 今のところ、オバマはリビアにアメリカ軍を送る気はない。イラクとアフガンで戦線が広がり、それどころではないのだ。

 しかし、アメリカの民間軍事会社は北アフリカに向かうことになるかもしれない。国家が建前として参加できない戦争に送り込まれるのが傭兵なのだから。カダフィはオバマ宛に書簡を送り、「不正義の戦争はやめてもらいたい」などと書き記したというが、アメリカがカダフィのような男の言葉を真に受けるはずもない。
 
 一方、欧州ではフランスのサルコジが、来年の大統領選に向けて、国内での人気を高めるために国際的なリーダーシップを見せようとしている。

 では、フランスがリビアに陸上部隊を送ることになったら、誰が先陣を切るのか。世界きっての傭兵集団であり、1831年に設立され、アルジェリアやメキシコで活躍して以来輝かしい歴史を刻み続けている、「フランス外人部隊」である可能性が高いと私は見ている(フランス外人部隊は外国志願兵からなる「正規部隊」だが、広義の傭兵とみなすこともできる)。

 つまり、これから起きる戦争は傭兵同士の闘いとなる可能性が出てきている。自国の兵士であれば、犠牲を抑える、規律を乱さない、などの制約がある程度生まれるが、傭兵による戦争は、国家・権力者の思惑と打算だけで遂行されてしまう危険を孕んでいるのだ。

 リビアでのカダフィの所業を見ればよくわかる。自国民を殺すのに、自国民の兵隊は使いづらい。だからカダフィはカネを積んで傭兵を使っている。

 カダフィが集めているのはアフリカ諸国からやってくる傭兵たちだ。彼らがリビアで得られる報酬は、本国での何年分もの給金に値する。需要と供給の不幸な合致が、リビアでの悲劇の引き金となっているのだ。

 傭兵は英語では“マーセナリー”と呼ばれる。この単語は形容詞としては「カネ目当ての」という意味になる。言葉を額面通りに受け取り、彼らが報酬だけを目当てにした血も涙もない男たちだと断じることは容易だ。

 しかし、ベトナム戦争をはじめとする幾多の悲劇的な戦争や、国家が推し進める不条理が、多くの傭兵を生み出してきたという側面を忘れてはならない。

 世界は今、傭兵という古いタイプの兵士を使いながら「新しい戦争の時代」に歩を進めようとしている。

※SAPIO2011年5月4日・11日号

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