おぐにあやこ氏は1966年大阪生まれ。元毎日新聞記者。夫の転勤を機に退社し、2007年夏より夫、小学生の息子と共にワシントンDC郊外に在住。著者に『ベイビーパッカーでいこう!』や週刊ポスト連載をまとめた『アメリカなう。』などがある。おぐに氏が、アメリカの「自慢」事情を解説する。
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アメリカに来たばかりの頃、小学3年だった息子はいつも不思議がっていた。「アメリカじゃ、自慢しても嫌われないのかなあ……」
息子の通う小学校に行ってみて、息子が不思議がる理由を知った。学校の廊下の壁一面に、低学年の作文が張り出されている。テーマは「自分の性格や特性」。最初に目に飛び込んできたのは、こんな作文だ。
「I am intelligent. Because I am the only 3rd grader in 5th grade math class」(僕はかしこいです。なぜなら5年生向け算数クラスにいる唯一の3年生だからです)
はぁぁ? フツー、自分で言うか? 「僕はかしこい」なんて!
ところが、壁の作文を片っ端から読み始めてビックリ仰天。なんと3人に1人が自分を「かしこい(intelligent)」と書いているのだ。おいおいこの学校、優等生だらけなの?
日本でこんな作文を書いたら……やっぱり顰蹙かうよねえ。
そんな話を友人クリスティーナにしたら、彼女は「まだ低学年だからよ。中学生にもなれば、アメリカだって自慢する子は仲間に煙たがられるわ」と言う。でも、今や中学生の息子に聞けば、「いやいや、中学生になっても『俺、おまえより頭いいもんね~』『ウソつけ。算数の授業、まだ6年生のだろ? 俺は2年も先取りしたクラスだぜ』みたいな会話、フツーにやってるよ」だって。
思い返せば6年前、息子は日本の小学校に入学してわずか数か月で、私にこう説教したもんだ。「母ちゃん、自慢はダメなんだよ。人に嫌われるんだよ」と。誰かにそう吹き込まれたのか、あるいは、クラスの人間関係から学んだのか。日本では小学1年生ですら「自慢は嫌われる」と自ずと学んじゃうんだな。
それはそれで窮屈な気がするけど、アメリカみたいに、子供だけでなく、親まで自慢しまくる社会ってのも、なんだかなあ。「うちの娘はビオラが上手。芸術家なのよ」「息子には文章の才能があるの。とってもクリエイティブなんだもの」「3歳でローリングストーンズを歌ったの。天使の声だったわ~っ!」が、その辺のフツーの親の会話なのだ。
ちなみに、「ビオラが上手」という母親に「何年くらい習ってるの?」と聞いたら、「2か月」だって。それ、日本じゃ、「ビオラを弾ける」とすら言わないわよー。
※週刊ポスト2011年5月6日・13日号
(「ニッポン あ・ちゃ・ちゃ」第143回から抜粋)