4月10日に行なわれた統一地方選では多くの候補者が「防災」を公約に掲げていたが、今後、防災関連予算が大幅に増えるであろうことは想像に難くない。だが、今回の震災は、政府が災害対策を名目に使ってきた予算がいかに役に立たなかったかを示した。ジャーナリストの武冨薫氏がレポートする。
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原発事故では文部科学省が放射線被害を予測し、自治体に通報するために約130億円以上をかけて開発した「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」(SPEEDI)がある。
しかし、稼働したのは震災から10日後で、同じく政府が原子力災害に備えて155億円をかけた独立行政法人・原子力安全基盤機構の「緊急時対策支援システム」(ERSS)のネットワークは稼働さえしていない。
被災地の防災無線の多くも電源が失われたために機能しなかった。 防災事業が役所の利権のためにしか使われていなかったという今回の震災の見落とせない教訓である。
そんな中、利権拡大に邁進する組織の最たるものが財務省だ。 野田佳彦・財務相は震災発生当日、「財政が制約になって災害対策に怠りが出てはいけない」と表明した。復興予算はケチらないという意味だ。
ところが、財務省はいざ4兆円規模とされる復興のための第一次補正予算を組むにあたって、逆に「赤字国債は発行しない」方針を示し、年金財源まで復興に回せと言いだした。それは例によって「財源不足で震災復興が出来ない」と国民にアピールし、復興増税に持っていく布石に他ならない。
復興費用は「総額30兆円は下らない」と見られており、各省は先に予算を確保することで復興事業の取り分を増やそうと動いており、その裏で財務省が復興増税で国民にツケを回そうと狡知を巡らせている。
被災者の生活再建と復興は待ったなしだが、安易な増税論に乗せられて役所に「復興のつかみカネ」を渡したらどうなるか冷静に考えるべきだろう。
※SAPIO2011年5月4日・11日号