福島第一原発で予断を許さない状況が続く中、放射性物質による汚染で、飲料水や食品に対する不安が高まっている。
3月22日には、東京・葛飾区の金町浄水場の水から、1キログラム当たり210ベクレルの放射性ヨウ素が検出され、東京に衝撃が走った。しかし、厚労省が水道事業体に対して「活性炭処理による除去効果を示す知見が存在する」との通達を出し、金町浄水場で活性炭処理を実施したところ効果が上がり、放射性ヨウ素は基準値以下にまで下がった。
このニュースが報じられると、活性炭を使った整水器メーカーの株価が軒並み上昇。3月24日には整水器のトップメーカー、日本トリムの株価はストップ高になった。日本トリムは1982年設立の整水器メーカーで、2004年に東証一部に上場している。11年3月期の売上高は前年比10.2%増の90億円、経常利益は13.8%増の14億円が見込まれている。その森澤紳勝社長に聞いた。
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――東日本大震災が起きた3月11日は何をしていましたか。
森澤:昼頃の飛行機で東京から大阪本社に戻ったところでした。大阪でも少し揺れて、テレビを見たら東北で大きな地震があったと。最初は被害者の数も少なく報じられていたので、そのまま仕事に戻りました。
16年前に阪神淡路大震災が起きた時も、私は共同研究をしていた台湾大学にいて被災しなかったので、この後、何が起きるのかわからなかったんです。夜8時頃に自宅に帰ったら、テレビは震災一色で、津波の映像も流れていて呆然とした。
この大災害に際して、企業として何ができるかを考えました。被災地で何が必要かと言えば、まず水で、我々は整水器メーカーです。仙台の営業所は無事だったので、震災から1週間ぐらいで500ミリリットルのペットボトル1万7000本と2リットルを6000本、まず仙台に送り、被災した方々に届けさせました。
――大地震後の津波で、福島第一原発で事故が起き、放射性物質が流出しました。
森澤:金町浄水場で放射性ヨウ素が検出されて、活性炭で除去できるという話が報じられると、問い合わせの電話を多数いただきました。弊社の製品では、マイクロカーボンという活性炭素の繊維で不純物をろ過しているので、効果はあるだろうと予想できましたが、今まで一度も放射性物質の除去能力など検証したことがありません。
裏付けもないままお客様にお話しするわけにいかないので、3月22日に急遽、社員を福島県いわき市に派遣し、常磐道を挟んで海側と山側の2か所、水道水を採取し、日本食品分析センターに検査を依頼しました。
1か所の水は初めから検出されませんでしたが、もう1か所の水は1キログラムあたり150ベクレル(規制基準は300ベクレル)含まれていたものが、弊社の電解還元水整水器を通したところ、測定器の精度限界以下(20ベクレル以下)となり検出されませんでした。
――確認できたサンプルは一つだけですか。
森澤:そうです。これははっきり申し上げておきたいのですが、そもそも弊社の製品は放射性物質の除去のために作られていません。弊社ホームページを見ていただければわかりますが、そのことを前面に出そうとも思っていません。
むしろ、電解還元水は浸透性が高く、洗浄力があるので、その機能を活用できないかと考えています。福島県の農家の方々は風評被害で苦しんでいます。放射性物質は水洗いすれば、ある程度落ちるそうです。
ですから、高い洗浄力を発揮する電解還元水で洗えばもっと落ちるのではないかと期待しています。不安を少しでも払拭してあげたい。そうすれば、消費者にも安心して食べてもらえるようになるはずで、そういう形で社会貢献できないかと考えています。
●聞き手/清水典之(ジャーナリスト)
※SAPIO2011年5月4日・11日号