3月18日にG7(先進7か国)が協調為替介入を実施したが、元ドイツ証券副会長の武者陵司氏によると「大きな為替トレンドの転換点になる可能性が高い」といい、今後、ドル/円相場が円安トレンドに向かうとの見方を示している。それが日本経済、ならびに日本株に与える影響について、武者氏が解説する。
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円高が終了し、円安相場が到来すれば、おそらく円は現時点の購買力平価水準である1ドル=111円を目指す展開となろう。そうなれば、日本企業の収益は劇的に改善するはずだ。
これは見過ごされがちな事実なのだが、日本は、世界貿易における恒常的な黒字国である中国、韓国、台湾といったアジアの勝ち組に対して、いずれも貿易黒字を出している稀有な国なのである。「失われた20年」の間に鍛え上げた生産性をベースにした競争力の高さはずば抜けている。
もし、購買力平価に近い円安が定着すれば、日本国内の賃金は上昇し、景気回復は力強さを増すに違いない。
以上が実現すれば、日本株は歴史的な上昇相場に突入すると考えられる。現在、日本株は、PBR(株価純資産倍率)をはじめとする各種の指標でみても、世界一割安な水準に放置されている。同様に、不動産もキャップレート(投資利回り)でみれば、世界で最も割安といっていい。世界中の投資家が「日本買い」に走っても不思議ではないのだ。日経平均株価は、今後3年間で現在の2倍の水準になっていても驚くに値しない。
そもそも、「失われた20年」はバブル崩壊から始まった。歴史を振り返ると、バブルの生成と崩壊は、その次の経済発展の萌芽となっている。世界恐慌後に米国が覇権を築いたこと(パクス・アメリカーナ)を思い出していただきたい。
とすると、「1990年のバブル崩壊は、2010年代の日本の繁栄の予告であった」可能性すらある。時間は多少かかるかもしれないが、震災の悲劇を乗り越えて、日本株は間違いなく浮上するだろう。
※マネーポスト2011年5月号