医者だって人の子。酒だって飲むし、テレビを観たい日だってあるだろう。社交ダンスが趣味だというT先生のある日の診断を、ナースたちは聞いていた。(女性セブン1988年3月24日号より)
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「食欲がなくてムカムカするんですよ、先生」
「じゃ、胃の薬も入れときます。それも風邪のせいだから」
「でも、ぜんぜんよくならないんですが」
「そんなに気にしなくても大丈夫ですよ」
いかにもうるさそうにT先生が患者さんを追い出すのを、私たちも聞いていました。T先生は週2回、社交ダンス教室にかよっていて、その日は手を抜いてでも早くすませようとするので有名なんです。
ところが、その患者さん、ほかの病院で診てもらったら、B型肝炎と診断されたんですって。B型肝炎って、最初、風邪のような症状なのでまちがいやすいんです。
血液検査をしなければならなかったところを、社交ダンス教室の時間が迫っていたから手抜きをしたんですよね。
T先生はふだんも「おまえらで勝手にやってくれ」なんて押しつけるような人だから、誤診もするわけですね。遅れてたら命とりだったんですよ。
その患者さん、別の病院でまっ青になって入院したらしいんですよ。家族の人が抗議にきたけど、こっちはもう、ただ頭をさげるばかりでした。