【書評】『戦国武将の健康術』(植田美津恵著/ゆいぽおと/1470円)
【評者】笹幸恵(ジャーナリスト)
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今回はちょっと趣向の異なる書籍を紹介したい。それも戦国武将の健康にまつわる諸々のエピソード。
最近では「歴女」なる女性たちも出現し、戦国武将は私たちにとってより一層身近で親しみやすい存在になっている。しかし、彼らの健康についてはどうだろうか。どんな戦をしたか、どんな城を築いたかといったことは話題になっても、武将たちの体調管理や生活習慣まで知る人は少ないのでは。
本書は、織田信長、武田信玄、上杉謙信といった戦国武将たちの「健康」に焦点を当て、様々なエピソードと共に、彼らのエネルギーの源や長寿の秘訣、はたまた早世の原因などを探っていく。
たとえば88歳の天寿をまっとうした北条早雲は、「早雲寺殿二十一か条」という家訓を残している。これには仏神を信じること、早寝早起き、嘘をつかない、乗馬に親しむといった細かな心得が記されている。いずれも健康な心身を育むために必要だと著者は言う。
健康術などというと、とかくダイエットやメタボ対策テクニックをイメージするが、さにあらず。医学ジャーナリストである著者は、武将たちの生活習慣や嗜好を紹介しつつ、時折専門的なウンチクを交え、現代に生きる私たちのライフスタイルに警鐘を鳴らす。
食生活についても随所で触れている。北条早雲一族が重宝していたのはカツオ。「戦に勝つ」ばかりでなく、DHAが豊富で、滋養強壮作用や、カルシウムの吸収を助けるビタミンDが含まれている。ちなみにカツオよりカツオ節のほうがタンパク質やミネラルが豊富だという。
伊達政宗によって研究された「仙台味噌」は、コレステロールを調整し、動脈硬化の予防になる。
武田信玄は一人で熟考する場所としてトイレを使っていたとか。消臭に使っていたのが「沈香」といわれるお香で、これは現代のアロマテラピーに通じる。
※SAPIO2011年5月4・11日号