膨張を続ける中国。対する超大国・アメリカはかの国をどう分析しているのだろうか。その実態を産経新聞ワシントン駐在編集特別委員の古森義久氏が解説する。
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アメリカの首都ワシントンでいま最も重厚な論題といえば、中国の軍事力だろう。もちろん日本の大震災や、中東での政治動乱も切迫した緊急大テーマではある。だがここ1年ほどの中期のレンジでは、なんといっても中国の軍拡こそが最も広範かつ頻繁に、しかも熱をこめ論じられてきた課題だといえる。
連日のように議会での公聴会、政府高官の記者会見、官民の研究所での討論会など、多様な場で中国の軍事力問題が取り上げられてきた。
アメリカがこれほど中国の軍拡を気にかけるのはまず第1に、その軍拡の疾走していく方向には、どうもアメリカ自体が標的として位置づけられているような構図が浮かぶからだ。
第2には中国の軍拡は日本や台湾に大きな影響を及ぼし、その背後のアメリカのアジア政策とぶつかり、さらにはアメリカが主導する現行の国際秩序への挑戦ともみえるからだ。中国の大軍拡がいま世界を揺さぶるといっても、過言ではないのだ。
中国の軍事の実際の動向についてはアメリカの情報収集力は抜群である。秘密のベールに覆われた中国の人民解放軍の兵器や兵員の動きを、人工衛星や航空機での偵察、通信傍受、さらには古典的なスパイ活動などの手段で察知する。スーパーパワーたる所以でもあろう。だから中国の軍事動向は中国領内にいてはかえってよくわからず、ワシントンのほうが公開情報が多いという実態なのである。
中国の軍事を研究する専門家も官民で数を増してきた。東西冷戦の長い年月、アメリカの国際問題研究ではソ連の軍事力が最大の課題であり、人材もその分野に集中していた。だがいまその集中が中国の軍事研究へと移ってきたという感じなのだ。いまでは中国の軍事についての情報や分析は、全世界でもワシントンが最も豊富な宝庫となったといえる。
※SAPIO2011年5月4・11日号