国内

大前研一氏 原発事故はエンジニアの知的怠慢が招いたと指摘

東日本大震災は、人類とテクノロジーの関係に大転換を迫っている。大前研一氏は、そう指摘する。そして、福島第一原発事故「最大の教訓」とは何か。以下は、大前氏の指摘である。

* * *
福島第一原発事故の教訓は、確率論を超える現実があるということだ。大地震が三陸沖で起きる確率、その大地震で津波が発生する確率、その津波の最大値は設定できる。だが、今回の津波は最悪の想定をはるかに超える過去に例のないスケールだった。

さらに、建屋の地下が水浸しになって非常用のディーゼル発電機が使用不能になり、全電源を喪失してしまった。これらすべてが一度に起きるという確率は通常、限りなくゼロに近い。畢竟(ひっきょう)、「悪いことが起きる時は最悪のタイミングと最悪のコースで起きる」という「マーフィーの法則」だけが証明され、確率論の限界が誰の目にも明らかになった。

では、原子炉エンジニアたちに瑕疵がなかったかといえば、断じてそうではない。彼らの知的怠慢が事故を招いた面は否定できない。

エンジニアは常に“最悪の事態”を想定して原子炉を設計・製造してきた。その象徴が格納容器だ。経済的な合理性からコストの高い格納容器は不要と判断したフランス(増殖炉)や旧ソ連と異なり、アメリカや日本は万々が一に備えてその採用を決定した。

確率論の世界で想定できる安全対策をすべて講じる過程で200億円をかけて格納容器を作り、「だから安全です」と地元住民を説得してきた。

ただし彼らは“最悪の事態”を「炉心が暴走した場合」に限定していた。格納容器は、メルトダウン(炉心溶融)が起きても放射性物質が外に出ないよう原子炉の中に閉じ込めておくためのものである。1979年のアメリカ・スリーマイル島原発事故ではそれが見事に機能し、メルトダウンが起きたものの放射性物質は格納容器に収まった。

ところが、今回の事故は格納容器の「外」で発生した。電源を全部喪失して冷却機能がなくなっただけでなく、使用済み核燃料を新品の核燃料と一緒に原子炉の隣の貯蔵プールに入れていたため温度が上がり水蒸気爆発や水素爆発を引き起こす事態に至ったのである。

※週刊ポスト2011年5月6日・13日号

関連記事

トピックス

復帰会見をおこなった美川憲一
《車イス姿でリハビリに励み…》歌手・美川憲一、直近で個人事務所の役員に招き入れていた「2人の男性」復帰会見で“終活”にも言及して
NEWSポストセブン
遠藤敬・維新国対委員長に公金還流疑惑(時事通信フォト)
公設秘書給与ピンハネ疑惑の維新・遠藤敬首相補佐官に“新たな疑惑” 秘書の実家の飲食店で「政治資金会食」、高額な上納寄附の“ご褒美”か
週刊ポスト
高市早苗首相(時事通信フォト)
高市早苗首相の「官僚不信」と霞が関の警戒 総務大臣時代の次官更迭での「キツネ憑きのようで怖かった」の逸話から囁かれる懸念
週刊ポスト
男気を発揮している松岡昌宏
《国分騒動に新展開》日テレが急転、怒りの松岡昌宏に謝罪 反感や逆風を避けるための対応か、臨床心理士が注目した“情報の発信者”
NEWSポストセブン
水原受刑者のドラマ化が決定した
《水原一平ドラマ化》決定した“ワイスピ監督”はインスタに「大谷応援投稿の過去」…大谷翔平サイドが恐れる「実名での映像化」と「日本配信の可能性」
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(Instagramより)
「球場では見かけなかった…」山本由伸と“熱愛説”のモデル・Niki、バースデーの席にうつりこんだ“別のスポーツ”の存在【インスタでは圧巻の美脚を披露】
NEWSポストセブン
モンゴル訪問時の写真をご覧になる天皇皇后両陛下(写真/宮内庁提供 ) 
【祝・62才】皇后・雅子さま、幸せあふれる誕生日 ご家族と愛犬が揃った記念写真ほか、気品に満ちたお姿で振り返るバースデー 
女性セブン
村上迦楼羅容疑者(27)のルーツは地元の不良グループだった(読者提供/本人SNS)
《型落ちレクサスと中古ブランドを自慢》トクリュウ指示役・村上迦楼羅(かるら)容疑者の悪事のルーツは「改造バイクに万引き、未成年飲酒…十数人の不良グループ」
NEWSポストセブン
現在は三児の母となり、昨年、8年ぶりに芸能活動に本格復帰した加藤あい
《現在は3児の母》加藤あいが振り返る「めまぐるしかった」CM女王時代 海外生活を経験して気付いた日本の魅力「子育てしやすい良い国です」ようやく手に入れた“心の余裕”
週刊ポスト
熊本県警本部(写真左:時事通信)と林信彦容疑者(53)が勤めていた幼稚園(写真右)
《親族が悲嘆「もう耐えられないんです」》女児へのわいせつ行為で逮捕のベテラン保育士・林信彦容疑者(53)は“2児の父”だった
NEWSポストセブン
リクルート社内の“不正”を告発した社員は解雇後、SNS上で誹謗中傷がやまない状況に
リクルートの“サクラ行為”内部告発者がSNSで誹謗中傷の被害 嫌がらせ投稿の発信源を情報開示した結果は“リクルートが契約する電話番号” 同社の責任が問われる可能性を弁護士が解説
週刊ポスト
上原多香子の近影が友人らのSNSで投稿されていた(写真は本人のSNSより)
《茶髪で缶ビールを片手に》42歳となった上原多香子、沖縄移住から3年“活動休止状態”の現在「事務所のHPから個人のプロフィールは消えて…」
NEWSポストセブン