美しい日本酒に派、美味しい肴を! 日本の自然と文化が育てた逸品をご紹介します!
※監修:小泉武夫氏(東京農業大学名誉教授で、近著に『絶倫食』などがある)
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春、産卵のため北日本に回遊してくるニシンだが、今では幻の魚と呼ばれるほどの貴重品。“春告魚”という名も、ひと昔前まではメバルではなくニシンの呼び名だったという。
「あと、魚偏に春と書く鰆という魚もいますが、春告魚の王者は、なんといってもニシンです。このニシンの卵がカズノコ。カドの子の別名があるのは、アイヌ語でカドはニシンの意味なので、これが訛ってカズノコになったといわれ、縁起がいいので昔から重宝がられてきました。しかも、ニシンの身には十分に脂が差し込んでいますから、旨味も格別。その丸干ですから、さらに旨味がギュギュッと凝縮され、ほらほら脂がジュウジュウと炭火に滴り落ちているではありませんか。おお、香ばしい匂いが私の鼻腔を串刺しだあぁ!」
小泉先生、雄叫びとともにニシンを手づかみすると、卵にかぶりついた。
「卵がプチプチ破裂するたびに、上品で濃厚な美味しさが攻めてくるようです。しかも皮付近の脂からはペナペナしたコク味こぼれ落ち、白い身を頬張るとアミノ酸の旨味がジュンジュンと出てきて、口の中はニシンの濃厚な味で溢れかえる。そこに日本酒をコピリンコと放り込むと、日本酒の甘味、辛味、酸味が濃厚さをまるで花吹雪のように洗い流す。そしてまた“春告魚に花吹雪”の繰り返しで、口の中は春まんか~い!」
※週刊ポスト2011年5月6日・13日号