最新小説『うから はらから』(新潮社・1785円)を出版した阿川佐和子さん(57)は、今回の震災を経験した若者はきっと強くたくましくなると考える。阿川さんは昭和28年生まれ。父で作家の阿川弘之氏も、母親も、もちろん戦争経験者だ。以下、阿川さんの東日本大震災に対して思うことだ。
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特に父は復員後、(原爆が投下された)故郷・広島の惨状を目の当たりにしています。そんな戦時中の話を毎日のように聞かされた私たちはうんざりする一方で、やっぱりあの世代は強いなあとも思うんですよ。
いまだったら国民の半分くらいが心の病気になりかねない戦後という状況を、なぜ乗り切れたのか。私も母に聞いたことがあるんですが、“だってあのときはみんなが大変だったから”とただそれだけ。その強さは、父や母の世代に、困難に直面したときには “あのときを思い出せ”という共通の尺度が根っこにあるからなんですよね。
問題は私たちで、共通の尺度となると私たち50代にもないし、40代、30代にもないと思う。阪神・淡路大震災を経験されたかたなどは別だと思いますが。何か大きな事件が起きても、すぐまた次の事件に最大関心事が移り、経済だけが豊かな時代に流され流されしながら、何十年も生きてきちゃいましたからね。
その点、今回の震災を経験した、特に子供や若者は、私たちなんかよりずっと強く生きられると思うんですよ。世の中のままならないことや不条理を、私たちみたいに逃げたりかわしたりせずに受け止められるのではないかと。この震災は彼らにとって、揺るぎない人生の尺度になるんだろうなって。いまは大変かもしれないけど、絶対きみたちは強くなれるからねって、たくましくなりたくても結局なれなかった私は結構本気で、そう思うんです。
※女性セブン2011年5月12日・19日号