小泉政権下で経済財政政策担当大臣・金融担当大臣補佐官、総務大臣秘書官を務めたのち、現在は慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授、エイベックス・マーケティング取締役の岸博幸氏は、特にソーシャルメディアの躍進以降のネット企業の戦略を〈植民地主義〉に喩える。(「」内は岸氏が話した内容)
従来型のネット帝国主義では搾取の対象は専らプロ、既存勢力のコンテンツだったが、フェイスブック等でユーザーが自ら個人情報を差し出す〈ソーシャル型〉の帝国主義では搾取の対象はユーザー自身だ。人々はネット空間に遊びながらに互いの行動履歴や個人情報を共有し、現実社会ではあり得ない〈情報の過剰な共有〉が進む。
「それが悪いとはいわないし、震災直後にツイッターが大活躍したのも事実です。ただ特に検証や考察を深める局面に入った今はプロの検証力が絶対必要で、ネットの情報とプロの情報が両方あって初めて僕らはまともな思考を持てる。例えば中東の政変でネットが果たした役割を英雄視する前に、ネット企業がその〈検閲の技術〉を以て自由の剥奪に加担してきた事実も僕らは知るべきで、ネットの自由もその抑圧も、彼らにすれば収益を最大化する美味しいビジネスなんですから。
しかも今僕らは文化という無形の財産を召し出そうとしていて、目に見えない分、搾取に気づきにくい。例えば、今回の震災で世界中が賞賛した日本人の素晴らしさがどんな文化の積み重ねの下に築かれてきたかを考える材料に本書がなれば嬉しいし、政府や企業はもっと頑張ろうよと」
今も進化を続けるネット帝国主義下ではあらゆる個人情報は共有され、身許の確実な同好の士との偶然を装った必然の出会いが巧妙にお膳立てされる。本に関しても“謎の女”との“危険な出会い”が失われることに、貴方は安心するだろうか、それとも寂しさを覚えるだろうか。
※週刊ポスト2011年5月6日・13日号