保険料アップ、受給額カット、旧社保庁による年金記録の杜撰管理など「年金不安」がサラリーマンの老後に暗い影を落とす。だが、年金に匹敵する老後の支えが見当たらない以上、この制度を利用し尽くすことが必要だ。「年金博士」として知られる社会保険労務士・北村庄吾氏が、知って得する裏ワザを伝授する。
1994年と2000年の2度の制度改正で、年金は段階的に原則65歳支給開始になった。定年退職後の60歳から64歳までは、年配層ならば特別支給や部分年金をもらえる場合もあるが十分な額ではない。まして、それらをもらえない世代は、再就職するか貯蓄を取り崩すなどして<空白の5年間>を乗り切るしかない。
いや、むしろこの期間を有効に使って、65歳以降に受け取る年金額をぐっと増やすこともできる。北村氏がアドバイスする。
「意外な盲点が、サラリーマンの年金の“1階部分”にあたる国民年金(基礎年金)の加入期間です。大卒のサラリーマンの場合、22~23歳で働き始め、60歳で定年を迎えるケースが一般的です。また、就職前に国民年金を支払ってない人が多いので、その場合加入期間は37~38年となり、満額(年78万8900円)を支給される40年には数年足りなくなる。厚生年金に加入していない60~64歳の人であれば国民年金に『任意加入』できる制度を利用して、満額受給にできるのです」
たとえば、加入期間37年の人が、定年後、国民年金に3年間任意加入したとすると、支払う保険料の合計額は54万720円(月額1万5020円)になる。定年後の生活にとって決して小さくない出費だが、65歳以降の余生を考えれば、かなりのプラスになる。
厚労省の調査によると、65歳の人の平均余命は、男性で約19年(84歳)、女性で約24年(89歳)。その年齢まで生きれば、3年間の任意加入で、男性なら112万4200円、女性なら142万円も受け取る金額が変わってくる。
任意加入のメリットは、年金額のアップだけではない。3年間で支払った保険料は、全額が社会保険料控除の対象となるため、節税にもなる。また、一定の要件を満たせば、障害年金や遺族年金を受け取れることも大きい。
定年退職後のサラリーマンは、他にも年金を増やす方法がある。北村氏が続ける。「国民年金の場合、『付加年金』といって、毎月の保険料に追加して400円の付加保険料を支払えば、〈200円×加入月数〉が毎年、生涯もらえる制度がある。この制度は厚生年金に加入するサラリーマンやその妻は利用できませんから、退職後だけの“特典”といえます」
毎月400円を3年間(36か月)支払えば負担は1万4400円。一方、65歳から受給する付加年金額は〈200円×36か月〉の年7200円となる。つまり、2年間受給すれば支払った保険料分の元は取れることになる。前述の男女の平均余命にもとづけば、トータルでは男性なら12万2400円、女性なら15万8400円も得だ。
任意加入も付加年金も、住んでいる各自治体の窓口で加入できる。
※週刊ポスト2011年5月6日・13日号