【書評】『サムスン栄えて不幸になる韓国経済』(三橋貴明/青春出版社/1575円)
【評者】森永卓郎(エコノミスト)
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いま私は、ソウルに来ている。ソウルの街をみていると、本書に書かれていることが実によく分かる。確かに経済は繁栄していて、摩天楼が乱立し、道路や飲食店がどこも混雑している。
ところが、一歩路地に入ると、昭和30年代のような時代に取り残された店舗がたくさん残っている。先進国と途上国が同居しているのだ。また、いまの韓国経済には、多様性がない。自動車は現代と起亜ばかりだし、家電製品はサムスンとLGばかりだ。だから、数少ない大企業に勤められれば天国だが、それを逃すと貧困が待ち受けている。
なぜ、そんな経済構造が出来上がったのか。きっかけは、1997年の経済危機だったと著者は言う。通貨危機に見舞われた韓国は、IMFの支援を受けざるを得なかった。その際、要求されたのが経済のモデルチェンジだった。
財閥企業の負債比率が200%に制限され、資産売却を余儀なくされる。財閥間の事業交換によって得意分野への事業集中が行なわれる。緊縮財政のあおりを受けて効率の低い中小企業が次々に破綻していく。そうした構造転換で、韓国の大企業は国際競争力を強め、韓国経済は急回復を成し遂げた。
しかし、それで韓国の国民が幸せになったのかというのが、著者の問いかけだ。韓国は、かつて日本と同様に、多数の中小企業が活躍する平等な社会だった。それが、大企業が経済を支配するアメリカ型社会に変貌した。そのなかで、労働者の実質賃金はどんどん下がっていった。
それだけではない。金融危機に伴う株価の暴落とウォン安で、韓国の企業は外資に買収されていき、引き下げられた法人税の下で、巨額の配当金が海外に支払われるようになったのだ。
経済成長しても、国民が豊かにならなければ、意味がない。だから、日本が韓国と同じ轍を踏まないようにと著者は警告する。ただ、改革はすべての韓国の国民を不幸にしたわけではない。勝ち組はさらに豊かになった。勝ち組が権力を握る限り、日本経済は韓国型に向かっていくだろう。
※週刊ポスト2011年5月6日・13日号