自衛隊が震災救援にかかりきりになっている一方で隣国・中国はかつてない勢いで軍事力を増強させている。その実態を防衛省はどのようにとらえ、対処しようとしているのか、軍事ジャーナリストの井上和彦氏が分析する。
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防衛省は、中国の「海上戦力」について、潜水艦戦力の増強に神経をとがらせており、とりわけ新型潜水艦に大きな関心を寄せている。
防衛省は、中国が現在建造中の「晋」級原子力潜水艦と、これに搭載される射程8000㎞の潜水艦発射型弾道ミサイル「巨浪2」をマークしている。なぜなら、この「晋」級原潜が実戦配備されれば、中国の核戦略が大幅に向上するからだ。
さらに、現在急ピッチで配備が進められている最新鋭の「商」級攻撃型原潜は、水中航行時の静粛性に優れており、探知することが難しいとされる。2005年にわずか2隻だった「商」級原潜は、2010年には5隻に増えたという指摘もあり、その増強ぶりには目を見張るものがある。また通常型潜水艦も、最新鋭の「元」級潜水艦などは2005年にはわずか1隻だったが、5年後の2010年には8隻に増強されている。
こうした中国の潜水艦戦力増強の動きを把握した上で、新たに策定された「防衛大綱」では、海自の潜水艦を現在の16隻体制から22隻体制に増強することをうたっている。
ところがその実態は、退役予定の潜水艦を延命して対処しようとするものであり、しかも増える6隻分の乗員の増員計画がないのだ。
潜水艦乗員は、1隻あたり65名で、後方支援要員を含めると、ざっと見積もっても約700人の要員が必要だ。しかも、サブマリナー(潜水艦乗員)は、海上自衛官のなかでもとりわけ優秀な隊員が選抜されるため、少なくともその10倍以上の隊員を採用する必要があろう。だが、そのための増員計画はどこにも見当たらない。
同じことが、南西方面の「島嶼(とうしょ)防衛」にも指摘できる。
尖閣諸島をはじめ島嶼部は、中国による侵攻が懸念されている。そこで防衛省は島嶼防衛の必要性を強調し、沿岸監視部隊や移動警戒レーダーの展開をうたっているのだが、その一方で、防衛予算は削減され、さらに陸上自衛官を1000人減らすことになっている。もはや支離滅裂というほかない。
※SAPIO2011年5月4日・11日号