岩手県宮古市の「たかはしメンタルクリニック」高橋幸成院長の元には、連日60人以上の患者がひきもきらずに訪ねてくる。その他、診療の合間に避難所も回っている。ようやく最近になって、被災地でも微笑ましい話を見聞きするようになったという。
「ある日、男性がバイアグラを希望してきました。あとでその男性が避難所生活を送っていることに気がついて、スゴイと思いましたね」(高橋院長)
先生と看護士は、プライバシーのない生活でどうするつもりだったんだろうと、思わず顔を見合わせたという。
震災後のエピソードも笑い交じりに話せるようになってきた。
「ある家の奥さんと子供は津波から逃げたんですが、オヤジがどこにもいない。避難所にもいない。方々探した後“自宅の2階にいるんじゃないか”ということになり、消防に捜索してもらったら、何事もなかったように寝ているオヤジがいたそうです(笑い)」(同前)
最初は気が張って、生きることだけに必死だった被災者だが、時間が経ち、少しずつ気持ちが落ち着く中で、客観的に自分の状況を見つめ、徐々に性の営みへの欲求や、笑う余裕が生まれてきているようだ。
※週刊ポスト2011年5月6日・13日号