金野由紀子さん(仮名)は23才。ニット会社勤務のOLで、彫りの深い現代的な顔だち、もの静かな性格。
彼女は通っていた着付教室を5か月足らずでやめたという。多くの人がふたり以上のグループで参加するなか、彼女だけはひとりで参加するなど、意思の強さを感じさせていたにもかかわらず、一体何があったのか――。(女性セブン1988年1月21日号より)
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いろんなことがあったんですが、もうダメだ、やめるしかないと思ったのは、ペアを組んだ三枝子(仮名)っていう1才年下の女性との一件があったからでしたね。先生にいうのもおとなげないと思っているうちに、どんどんエスカレートしてきちゃって。
三枝子たちとは、最初、ふつうに話したりしてたんですよ。
「現代きものを着こなしたいわね…パーティーにドレス代わりに着ていったらステキじゃない」なんていうと、「あら、似合いそうね」って、答えてくれたりして。
それがある日、三枝子の帯あげがなくなったんです。「おばあちゃんの形見なのに、どうしよう…」といいだしたんです。私もいっしょに捜してあげればよかったんですが、彼との待ち合わせの時間が迫っていたから、「ごめんね」といって帰っちゃったんです。
すると、次の日から彼女の見る目がガラッと変わったのね、私にたいしての。
――たとえばどんなふうに?
私に聞こえるか聞こえないような声で、「あの人の近くに、大事なもの置かないほうがいいわよ」なんていうんですよ。ムッとして、「それ、どういう意味よ」というと、「あら、私、いまなんかいった?」ってとぼける。まるでおこった私だけがバカみたい。
また、着付って肌着の着方から習うんですよね。肌じゅばんとすそよけが、洋服でいえばキャミソールというわけ。そのあと、きものを着たときに格好よく見せるように、補正することを習う。
ほとんどの人が胸をピンと張らせるためにタオルを使ったのに、私は逆に胸を小さく見せるようにさらしを巻いたのね。
「見た? ずいぶん遊んでるわよ、あの胸。3人や4人の男じゃ、ああはならないわよね」
裸同然の女同士がケンカなんかしたら、それこそかっこ悪いですよ。すぐ近くにいた私の耳には、はっきり聞こえていたんですが、必死にがまんして、その言葉を無視しました。