東日本大震災の被災地避難所では、自分を取り巻く状況を客観的に見ることにより、「生き残ったこと」への罪悪感を語る人も少なくない。
ある男性は、津波にのみ込まれ、海を漂流しながら九死に一生を得た。しかし、震災から1か月たった今、「死にたい」と繰り返しているという。
岩手県宮古市の「たかはしメンタルクリニック」の高橋幸成院長は、診療の合間に避難所も回る。高橋院長が語る。
「親友が亡くなったことで、『あんないい奴が死んで、俺が生き残るなんて』と自分を責めているのです。
男性には私と同じく娘さんがいたので、まず、私の話をしました。私は、普段はなかなかいえないけど、震災を機に娘に『愛している』と伝えたと。それで『お嬢さんをひとりぽっちにするのですか』と1時間ほど話したんです。思いっきり泣いて、ようやく落ち着きを取り戻しました」
高橋院長は悲しみにくれる人々の声に耳を傾けながら、同時に人間の逞しさも感じているという。
※週刊ポスト2011年5月6日・13日号