人口13億人の中国と国境を接する人口12億人のインド。両国で世界の3分の1以上の人口を占めるが、膨張する中国を、もう一つの大国はどう捉えているのか。長年、インド、南アジアの研究をしている尚美学園大学大学院教授の堀本武功氏が解説する。
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中国にとって最大の外交課題はアメリカである。そのことをインドも重々承知しており、印米は接近した。2000年3月にはクリントン大統領が訪印し、日本も後追いする形で同年8月に森喜朗首相(当時)が訪印。
さらにブッシュ政権になると、アメリカは中国を牽制する姿勢を強め、2004年には印米両国で戦略的パートナーシップ構築に合意した。印中の国力の差を埋めるため、超大国アメリカを上手く使ったのだ。
だが、オバマ政権が誕生して再び状況が変わる。アメリカは中国重視に切り替え、米中がG2(米中の2大超大国が中心となって世界を動かす)体制へ移行するのではないかとの不安をインドは抱いた。事実、タカ派からは“インドはロシアとの関係を強化すべきだ”といった強硬論が出た。
中国がその後、強気な外交を展開し始めるとオバマ大統領はG2(米中2国が協調体制の下で世界秩序を形成し、世界をリードすること)的な考え方を明らかにやめた。あらためて中国だけでなくインドも重視する方針に戻したのだ。
インドは中国がこれ以上、アメリカとは深い関係にならないと見て安堵している。
ただ今後も、印米中のそれぞれの関係が相互に影響を及ぼす三角関係を常に考慮する必要に迫られている。2009年以降、中国は印中の係争地域となっているインド亜大陸の北東部アルナーチャル・プラデーシュ州(インドが実効支配)の領有を繰り返し主張するようになった。この背景には米中関係が順調に進展していることがある、とインド側は見ているようだ。
このようにインドは中国のプレゼンス増大を大変警戒しているが、一方でそう遠くない将来に中国の経済成長には限界がくると見ている専門家が多い。彼らは皆、その話をする時、非常に嬉しそうだ。
中国は2011年からの第12次5か年計画で7%の経済成長率を掲げているが、汚職が多く、共産党一党独裁体制のため、不満のはけ口がない。このような“中国モデル”では、中東のようにデモ、暴動がいずれ起きる可能性がある。
その点、インドでは国民の不満は、選挙による政権交代という民主的プロセスで解消されやすい。民主主義の中で経済発展をする“インドモデル”の方が将来性はある、と見ている。
すでに中国が東南アジアで「元」通貨圏を構築しつつある一方で、インドもネパールなどでルピーが使え、将来的にはインド経済圏を作ろうとしている。いずれ両経済圏はぶつかるだろう。
インドは現時点で強大な隣国・中国を「インドにとってのチャレンジである」と表現することが多い。だが、今後は国力を蓄えていくだろう。そういう意味では、インドはまさに今、富国強兵を行なっているのだ。
※SAPIO2011年5月4日・11日号