3月11日から2か月。お茶の水女子大学名誉教授の藤原正彦氏とジャーナリストの櫻井よしこ氏が国家再生に欠かせない日本人の「覚悟」と「誇り」を論じ合った。
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櫻井:東日本大震災の後、日本人が見せた態度に、世界中が感動しています。被災した人たちは家族も家も船も田んぼも全部失うという極限状態のなかで助け合っています。震災直後の東京でもそうで、誰もが冷静に、お互いを思いやる行動をとっていました。
藤原:困っている人、泣いている人へのやさしい気持ち、弱者への涙といったものが日本人の遺伝子に入っていて、それが今、発揮されているんじゃないでしょうか。武士道精神というのは鎌倉時代に始まり、江戸時代になって庶民にも広まった国民的精神といいますが、私はおそらく縄文、弥生時代からそういう気持ちを受け継いでいると思う。
櫻井:日本文明の遺伝子ですね。
藤原:決死の放水作業に向かう消防隊の人が、「これから原発に行く」と奥さんにメールしたら、「日本の救世主になってください」と一行だけの返信がきた。まさに武士の妻ですよ。
櫻井:自衛隊員も、寝ようと思えばテントを張ってちゃんと休めるのに、寝袋だけで地面で寝ていた。3月半ばでまだ雪が降ることもある気温零下の寒い時期、「被災者の方たちより暖かいところに寝るわけにはいかない」と。もう、涙が出ます。
藤原:本当ですね。
※週刊ポスト2011年5月20日号