オサマ・ビンラディン殺害の一報を、世界中の多くの人々は歓喜と安堵の想いで受け止めた。9・11から10年にわたる“大捕物”はついに終止符が打たれた。
しかし、権力者の死には、“生存神話”がついてまわる。今回も例外ではない。1990年代にはビンラディンの支援を受けたパキスタンのイスラム原理主義勢力タリバンは、殺害報道から2日後、「同氏は依然生存している。死亡報道には根拠がない」と発表した。
にわかには信じがたい主張だが、こうした“生存説”が生まれてしまうのも、アメリカ政府の不可思議な対応を考えるとやむを得ない。公開情報が少なく、多くの謎が残されているため、「もしかすると殺害自体が米政府による自作自演なのでは」と陰謀論を膨らませてしまっている。
水葬というなじみのない遺体処理も疑念を招く要因の一つだ。米国防総省によると、5月2日未明(米東部時間)、北アラビア海に展開する空母から重りをつけた遺体を海中に下ろしたという。イスラムでは死の24時間以内にモスクで祈りを捧げて埋葬するのが慣例であるが、「遺体の引き取り手がないため」水葬したという。
国際ジャーナリストの河合洋一郎氏が語る。
「あまりに早く葬ってしまったことは不可解です。埋葬すればそこが殉教者の墓として聖地になってしまうため、『捨てた』と理解するのが自然でしょう。ただ、水葬の映像があるわけでもないので、本当に海に沈めたかは分かりません」
24時間以内の葬送を最優先したのかもしれないが、水葬はかえってイスラム教徒の反感を買ってしまった。10年越しの“獲物”を、急かされるように拙速に処理した米政府の行動はなんとも解せない。
※週刊ポスト2011年5月20日号