〈この店の肉は、一番高くても1皿380円のカルビ。しかも、国産黒毛和牛のA3クラス!〉
4月18日放送の日本テレビ系『人生が変わる1分間の深イイ話』で、死者4人を含む数十人の食中毒患者を出した焼肉チェーン店「焼肉酒家えびす」が紹介された。この店で出されるすべての牛肉がA3クラスの国産黒毛和牛かどうかわからない曖昧な言い方ではあるが、ある食肉流通業者はこう解説する。
「通常、ユッケを作る場合は牛のサーロイン(ロース)かモモ肉を使う。一般に高級店ではサーロイン、中堅以下やチェーン店ではモモ肉を使うケースが多い。A3クラス和牛のモモ肉は卸価格で1kg当たり2000円程度ですが、肉の表面部分は菌が付着しているので捨てなければならず、実際に使える部分は少ない。一皿(60~80g)なら、安くても700円以上になる。280円で出していたとしたら大赤字です」
消費者はともかく、番組を制作する側は当然、“これは安すぎないか”と思う感覚が必要だった。現に同店は表面部分を捨てる工程を「もったいない」として省いていたと報じられている。
厚生労働省は生食用の肉に関する基準を定めているが、全国の食肉処理施設から出荷される牛肉に「生食用」は存在しない。つまり生食用の処理をされていない肉が、「業界の慣例」として、店の判断で生で出されているということだ。
「生肉を扱う店では徹底した管理は当たり前。そのためには、肉の鮮度が落ちていないかを、見た目の変化やにおいなどで判断できる肉調理のプロが必要です。激安のチェーン店では、それができる店員がいなかったのではないか。番組で称賛されていた接客の質は上げられても、肉調理の目利きを育てるのは難しい」(前出・流通業者)
※週刊ポスト2011年5月20日号