3・11東日本大震災の発生後、東京電力や政府や原子力村の学者達は「想定外の天災による事故だった」と語った。本当だろうか。そう疑問を呈するのは、ベストセラー『がんばらない』著者で、諏訪中央病院名誉院長の鎌田實氏だ。
* * *
2009年6月に開かれた経済産業省の専門家の会合で産業技術総合研究所活断層・地震研究センターの岡村行信センター長は、約1100年前の貞観津波を例に挙げ、福島第一原発の見直し案を批判した。その当時から、疑問の声はあがっていた。つまり、想定外ではなく、想定内だったのである。
よく調べてみると、いろいろあった。2006年8月の原子力安全委員会の分科会第48回では、島根原発周辺で活断層の見落としがあったとして、大幅な修正が求められた。原子力安全委員会の分科会の委員、神戸大学の石橋克彦名誉教授は対応の鈍さを見て「日本の原子力安全行政がどういうものか分かった。社会に責任を果たせない」として委員を辞任した。
地震大国・日本の原発研究者の中には手厳しい批判をしていた人たちがいたのである。にもかかわらず、お金をかけたくないというコスト優先主義によって無視されていったのだと思う。
福島原発の1~4号機に使っている原子炉は、米・ゼネラルエレクトリック社が作ったもの。1975年にはすでに原子炉格納容器が小さくて脆いと、自身の職をかけて闘った同社の設計者、デール・ブライデンボーという男がいた。彼は冷却機能が失われると内部からの圧力で損壊してしまうと懸念していた。格納容器の貧弱さも、これまた想定内だったのである。
先の石橋名誉教授は指摘していた。
「大地震が起きれば、長時間外部電源が止まって、早急に修理されない可能性もある。激しい揺れで備蓄燃料が漏れてしまうこともありうる。非常用の発電機が立ち上がらない可能性もなきにしもあらず」と。全部、今回の福島の事故が想定されていたのだ。
※週刊ポスト2011年5月20日号