「告別式には行きました。『ありがとう』、そして『ごめんね』と声をかけました。僕は、スーちゃんは幸せにやってると思ってましたから……。何も力になってあげられなかった」
徳島県にある自宅前で、ミュージシャンの西慎嗣氏(50)は、慎重に言葉を選びながら語り始めた。西氏は『スペクトラム』のギタリストとして、日本のポップス界に一大旋風を巻き起こした人物。と同時に、スーちゃんこと田中好子さん(享年55)がキャンディーズの一人としてアイドルの頂点に立っていた頃、密かに交際していた男性だ。
西氏がスーちゃんと出会ったのは、1977年のことだった。キャンディーズのバックバンド『MMP』にギタリストとして抜されたのである。
1973年にデビューしたキャンディーズは、1975年に『年下の男の子』で初めてオリコンチャート・トップ10入り。2人が付き合っていた当時、人気は絶頂期にあった。
当時、西氏はまだ16歳。スーちゃんは20歳で、まさに「年下の男の子」だったことになる。
「彼女はスターで、僕はまだ子供。憧れて見ている部分も多かったし、やっぱりお姉ちゃん的な存在だった。仕事でも向こうが全然先輩でしたし……。弟みたいに可愛がってもらいました」
アイドルながら、キャンディーズはコンサートでは洋楽などにも取り組み、高い音楽性を求めていた。ミュージシャンとしてスタートを切ったばかりの西氏にとっても、キャンディーズの3人にとっても、それは厳しい戦いだった。それゆえ西氏はスーちゃんのことを「僕の戦友」とも呼ぶ。そんな2人が恋人として過ごせる時間はわずかだった。
キャンディーズは1977年7月17日の日比谷野外音楽堂のコンサートで、突然の解散宣言。解散コンサートに向けて走り出していた。
西氏は一番の思い出をこう振り返る。
「解散コンサートのために、みんなでつま恋合宿をしたんです。ランニングしたり、馬に乗って遊んだり。それまでは、3人はコンサートが終わるとすぐ次の仕事にピュッと行ってしまうような、そんな感じだったので」
1978月4月4日、後楽園球場に5万5000人を集めた伝説の解散コンサートで、キャンディーズは解散。西氏とスーちゃんの交際はその後も続いたが、それも束の間のことだった。
「当時は忙しかったし、一緒にいられる時間は少なかった。僕のほうも解散後アメリカに行き、帰ってきてからスペクトラムを始めたりで。それに、(アイドルの交際について)世の中が敏感だったので、なかなか遊びに行くこともできない。そういう時代でした」
1年ほどで交際は自然消滅。西氏はミュージシャンとして活躍し、スーちゃんも1980年に女優として復帰したが、2人の歩む道が交差することはなかった。
※週刊ポスト2011年5月20日号