脳腫瘍の悪性神経膠腫は、CTやMRIで造影剤を使うと白く映るが、実際の手術では正常脳と腫瘍の区別が難しい。そこで最近、腫瘍細胞だけを光らせる光線力学診断が行なわれている。術前にアミノレブリン酸(5-ALA)を内服すると、腫瘍細胞に選択的に蓄積し、青色の光をあてると腫瘍が赤い蛍光を発する。赤い部分のみ切除可能で、腫瘍をレーザーで破壊する研究も始まっている。
原発性の脳腫瘍は年間1万人に1人の割合で発生する。半数は髄膜腫や脳神経の腫瘍など脳の外から発生する良性腫瘍で、手術で完治する。しかし脳腫瘍の4人に1人が脳の中から発生して浸潤する神経膠腫(グリオーマ)で、正常脳との境界がわかりにくい。
以前は、眼底検査で使われるフルオレセインを使い、腫瘍細胞の場所を特定していた。この方法は、脳の血管は物質を通しにくいが腫瘍の血管は通すという性質を利用したもので、血管から出たフルオレセインに特殊な光をあてると腫瘍部が緑色の蛍光を発する。大阪医科大学附属病院脳神経外科の黒岩敏彦教授の話。
「フルオレセインは腫瘍細胞の中に入るわけではないので、現在は腫瘍細胞に蓄積する性質のあるアミノレブリン酸(5-ALA)を使った光線力学診断を実施しています。術前に内服し、手術中に青い光をあてると腫瘍部分は赤く光り、その周囲で脳と腫瘍が入り混じっている部分は淡い赤に見えます。腫瘍は全部切除することを目指しますが、手足の運動を司る運動野や言語野など、重い後遺症が残る危険性が高い場所は、淡い赤であれば切除しないこともあります」
(取材・構成/岩城レイ子)
※週刊ポスト2011年5月20日号