平成22年度の自殺者数、3万1690人。現在発表されている東日本大震災の犠牲者を上回る。自殺について作家の山藤章一郎氏がレポートする。
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「飛び降り自殺急増 横浜ベイブリッジ」
この2~3年、ニュースのサイトに現れる自殺の新名所である。
ブリッジを管轄する神奈川県警山手署、首都高管理局、海上を管轄する横浜水上署。いずれも、自殺の新しい名所として騒がれることを警戒する。
「取材はお断りしています。飛び降りの数字も公表していません。頻繁に通る大型船のスクリューが遺体を巻き込んでぶった切る。いい死に方じゃありません」
したがって急増とまでいえるかどうかも、件数も不明である。しかし、サイトはこんな現実を報告している。
「ベイブリッジの路側帯に不審な車が駐車してます」通報で県警高速隊が駆けつける。ところが、車にも路面にも人がいない。高さ1.1メートルの防護柵を跳び越えたか。
連絡を継がれた水上署が橋下の海中を捜索する。男性の遺体が揚がってきた。防護柵に手の痕も残っていて、自殺と断定された。
タクシーでやってきて、ダイブした50過ぎのネクタイもいた。
ブリッジ上で「ちょっと気持ち悪くなった」と運転手に声をかけて降ろしてもらい、いきなりガードレールを跳び越えた。
橋の長さは860メートル、二層式で上層は首都高湾岸線、下層を国道357号線が走る。上層から海面までは15階建てビルほどの55メートル。下層の国道は路側帯が狭く、車は停められない。みな上層の湾岸線から跳びおりる。
タクシーの客は開いた後部のドアから外に出て、するっとガードレールにあがった。一瞬、車の中の運転手に振り返って微笑み、唇を動かした。
「おい、なにしてる?」運転手は驚きに小突かれて、声をあげた。ガードレールにあがった男は闇の海を覗きこみ、足と手を小刻みに移動させためらいを見せている。また振り返って唇を動かした。
運転手に今度は、「バイバイ」といっているのが分かった。「なんだ、待て。待て」
運転手はあわててドアを開けた。路面に足を降ろして振り返った。男は消えていた。
※週刊ポスト2011年5月20日号