福島第一原発事故は、日本だけではなく世界に不安の影を投げかけている。東京電力への批判は多く、また、今後の賠償問題や経営問題など課題は山積しているが、その東電に捜査当局の手が伸びようとしているという。
検察が東京電力経営陣の責任追及に向けて資料収集を開始しているのだ。検察の動向に詳しいジャーナリストの伊藤博敏氏が報告する。
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「原発事故を天災と人災に切り分け、そのうえで、東京電力の誰にどんな責任が生じるかを検証している」
検察関係者は、将来の事件化に備えて、検証作業を行なっていることを隠さない。天災だけなら事故、人災が絡めば事件となる。その可能性があって公的資金が投入され、告訴告発も相次ぐだろうから、検察が、今後、「事件対応」するのは当然だ。では、天災と人災の線引きはどこか。
簡単に言えば、津波までが天災、津波後が人災となる。
現行の原子力規制は、首相が任命する原子力安全委員会が原発の安全審査や政府への助言を行ない、経済産業省の外局である原子力安全・保安院が、原子力施設に検査官を配置、原発を監視することになっている。
従って、東電がマグニチュード9で津波の高さが15mという天災を予測して設計、運用していたわけではなく、チェック機関もそこまでの想定を求めなかったのだから、「天災だった」という言い訳は成り立つ。
しかし、津波後はどうだろうか。
震災が発生した3月11日、東電の勝俣恒久会長は北京にいて、清水正孝社長は関西にいた。トップ2人が不在の中、危機は次々に訪れ、原子炉内の気圧が急上昇、格納容器破損の恐れが出てきたため、同日午後11時過ぎには菅直人首相や海江田万里経産相、斑目春樹原子力安全委員長らの間で、弁を操作して高温の水蒸気を外部に逃がす「ベント」と呼ばれる作業が必要になったという合意がなされ、何度も指示が出されたものの、東電は動かなかった。
結局、ベントの開始は翌日の午前10時過ぎで、その5時間後には爆発が起きたことを思えば、初動の遅れが致命的だった。
東電関係者が率直に言う。
「弁を開けると大量に放射性物質が拡散する。そのことへの恐れがあった」
また、廃炉になるのをためらって、海水の注入が遅れ、それが炉心溶融につながった、とされる点も同じである。そうした経営陣の保身が、大惨事につながったことが実証されれば、業務上過失致死傷罪などが成立する。
主任検事が証拠品を改竄するなどした大阪地検事件をきっかけに、再生が求められている検察は、自らの存亡をかけて天災と人災の狭間を縫う捜査を行なうことになる。
※SAPIO2011年5月25日号