東日本大震災後、外国首脳として最初に来日したのはフランスのサルコジ大統領だった。この来日に素直に謝意を表わすのは、あまりにもナイーブだとジャーナリストの歳川隆雄氏は指摘する。サルコジ大統領のしたたかな経済外交戦略を同氏が読み解く。
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言うまでもなく、フランスは国内消費電力の8割を原発に依存し、原発プラントが輸出産業の柱になっている。そのフランスが強く怖れているのは、今回の原発事故の影響で世界中に脱原発の世論が広まり、原発プラントの輸出にブレーキがかかることである。
実際、2030年までに100基以上の原発を建設する計画を立てている中国でも、原発依存に対する疑問の世論が起きつつある。そのゆえ、サルコジは慌てて中国に乗り込み、胡錦濤国家主席、温家宝首相、原発担当の閣僚らに会い、あらためて原発を推進するよう説得した。
日本を訪問したのはその帰途だったが、当初、原発事故への対応に追われていた日本は訪日受け入れに消極的だった。だが、サルコジはG8サミット議長を盾に「日本への支援と連帯を表明したい」という建前で押し切り、訪日を実現させた。サルコジはかつて「相撲はインテリのスポーツではない」と語るなど日本嫌いとして知られ、これまで日本側からの訪日要請に応えてこなかった。それにもかかわらず、自国の国益を守るために緊急来日したのである。
こうした地ならしをした上で、5月のG8共同声明の中に、「より安全性を高め、原発を推進することでしか人類が生き残る道はない」といった類の文言を入れる腹づもりだ。
他国の危機に乗じてでも自国の国益を最優先に考えて行動するこうしたしたたかなリーダーシップが世界にあることを見逃してはいけない。
※SAPIO2011年5月25日号