国際情報

チェルノブイリ被害者14才少女 ほしい物は?に「モルヒネ」

 1986年4月26日、旧ソ連・チェルノブイリ原子力発電所第4号炉が爆発、放射能雲がヨーロッパ中を覆った。13万5000人が移住を余儀なくされた原発30km圏内の町や村は、25年後の現在も廃墟と化したままだ。事故直後から現地を取材し続ける、DAYS JAPAN編集長でフォトジャーナリストの広河隆一氏がチェルノブイリの真実をレポートする。

 * * *
 チェルノブイリ事故当時、タチアナ・ルキナは、原発から4km離れたプリピャチ市の自宅のベランダから、チェルノブイリ原発の火災を見た。そのことを彼女はその後長く悔やむことになった。当時タチアナは妊娠していたのだ。

「なぜ私はおなかの中の赤ちゃんを放射能にさらすようなバカなことをしたのでしょう」と彼女は涙を浮かべながら何度も繰り返す。

 事故から3年後、そのときの赤ちゃん、アリョーナには、血液の病気が見つかっていた。事故から23年経ったとき、アリョーナには腫瘍をはじめ、体中にさまざまな病気が見つかっていた。事故処理作業をしていた彼女の父親は、寝たきりになっていた。

 ガリーナもまた、プリピャチ市で暮らしていた女性だ。事故直後にバスで避難するとき、生まれたばかりの娘に飲ませる哺乳瓶の口を洗わなかったこと、瓶を開けたままにしていたことを思い出す。後悔しても後悔しきれないのだ。娘は10年後に甲状腺の病気を発症したのである。

 事故が1986年4月26日未明の1時23分に起こったとき、最初にチェルノブイリ原発から吐き出されたのは放射性ヨウ素だった。自然界ではヨウ素は海藻などに多く含まれ成長ホルモンを分泌する甲状腺の栄養分となる。

 しかし核爆弾や原発事故によって生成される放射性ヨウ素と、栄養になる自然のヨウ素の違いを、人間の体は見分けられない。放射性ヨウ素を体のためにいいものだと錯覚して、積極的に取り込んでしまうのだ。こうして甲状腺が位置するのどが被曝し、数年後にはがんの発生が始まる。

 がんが甲状腺にある間に見つかれば、甲状腺を取り除く手術を行い、そのあと毎日薬をのめば、事なきを得る可能性が高い。しかし発見が遅れたら…。がんは体中に転移し、ときには脳までをも侵して命を奪う。そのようにして事故から10年以上あとに、子供たちが次々と亡くなっていったのだ。

 事故から10年後、14才のターニャに会ったとき、彼女はもう医師から見放されていた。激しい痛みに悲鳴を上げていた。彼女は発症するまで女優になるのが夢だった。

“いまいちばんほしいものは何?”と私が尋ねると、「モルヒネ」と答えた。14才の少女は、「ほしいものはモルヒネ」と答える残酷な状況に追いやられていた。

 しかし病院は痛み止めのモルヒネを与えないという。なぜなら「薬は病気を治すためのもので、その可能性のない子に与える薬はない」と医師はいうのだ。ターニャはその2か月後に死んだ。

◆広河隆一氏の最新刊『暴走する原発 チェルノブイリから福島へ これから起こる本当のこと』(小学館刊)は5月22日発売予定。

※女性セブン2011年5月26日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

田村瑠奈被告(右)と父の修被告
「ハイターで指紋は消せる?」田村瑠奈被告(30)の父が公判で語った「漂白剤の使い道」【ススキノ首切断事件裁判】
週刊ポスト
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
暴力団幹部たちが熱心に取り組む若見えの工夫 ネイルサロンに通い、にんにく注射も 「プラセンタ注射はみんな打ってる」
NEWSポストセブン
10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏
《アポロ11号月面着陸から55年》宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る、人類が再び月を目指す意義 「地球の外に活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然」
週刊ポスト
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン